ヤマト、ヤフーとのタッグ結成に見るジレンマ 荷物量の回復と料金引き下げの狭間で揺れる

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ただ、ヤマトのフルフィルメントサービスには競合との差別化という課題も残る。小口の荷物を頻繁かつ大量に出荷しなければならないEC事業者からすれば、配送料や出荷作業にかかる人件費などのコストをいかに下げられるかが、物流アウトソーシングサービスを選ぶうえでのポイントとなる。

3PL(サードパーティーロジスティクス、物流の一括受託)大手の日立物流は、2019年9月末から中小EC事業者向け倉庫である「ECスマートウエアハウス」を稼働させており、商品の在庫管理から発送までを請け負っている。

同倉庫の特徴は、従量課金制と自動化だ。これまで3PLに物流業務を委託するには設備費なども含めて多額の初期費用がかかったが、ECスマートウエアハウスにおいては顧客であるEC事業者は出荷量に応じた費用を負担する形になるので、コストを抑えられる。

日立物流のEC事業者向け倉庫で稼働するAGV(撮影:風間仁一郎)

あわせて、AGV(無人搬送車)などの自動化設備が導入されているため、人手がかかった業務量を従来比で7割以上削減している。日立物流の中谷康夫社長は「業務の自動化が進めば作業ミスも減らせる。顧客の反応を見ながら同様の倉庫を全国に展開していきたい」と語る。

同様に自動化の進んだ従量課金制の倉庫は、大和ハウス工業、佐川グローバルロジスティクスなども展開している。また、中小EC事業者を中心に約6000社のユーザーを抱えるオープンロジなど、コストを抑えた競合サービスは多数存在する。ヤマトのフルフィルメントサービスがZHDの出店者に利用されるには、価格面で競合サービスと差別化しなければならない。

配送料を引き下げるのか

他サービスと差別化するうえでヤマトが強みを発揮できるのは配送料だ。ある物流アウトソーシングサービスの幹部は「配送料を引き下げられるならば、ヤマトも存在感を出せるかもしれない」と指摘する。

2017年7月から日本郵便と楽天は、楽天市場の出店者向けに「楽天特別運賃プログラム」を提供開始。2019年9月からは「ゆうパック」の配送料を平均10%ほど値下げしており、多くの出店者から支持を得ているという。ヤマトも同様に配送料を引き下げるならば、競合サービスと大きく差別化できるため、ZHDの出店者からの荷物も見込めそうだ。

とはいえ、荷物確保のために配送料を引き下げてしまえば、アマゾンなど大手顧客の荷物を低価格で引き受けていた2017年の「ヤマトショック」以前の状況に逆戻りしかねない。安い配送料で利益が上がらなければ、現場で配送を維持するドライバーへの還元も当然難しくなる。コストを削減したい出店者に向けて、いかに採算性を維持しながらコストメリットのあるサービスを提供するか。板挟みのヤマトには難しい舵取りが求められている。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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