緊迫する今こそ考えたい、「いい保育園」の条件 あなたの子が通う園に「余裕」はありますか?

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すると、十分に人件費をかけないブラック保育園まで増えてしまい、全体として保育の質が低下しているのが現状だ。こうした保育情勢の中で、ぽむ・砧のように穏やかな保育が実現できるのは、保育士の処遇のよさが支えになっているのではないだろうか。

都内の株式会社(NPO法人や学校法人を含む)の認可保育所について、筆者は東京都に情報公開請求を行い2016年度の賃金を調べ、『週刊東洋経済』(2019年9月21日号)でまとめた。

具体的には、東京都独自の保育士の処遇改善補助を受ける施設が都に提出する「保育士等キャリアアップ補助金の賃金改善実績報告書」を開示請求し、「教育・保育従事者の職員1人当たり賃金月額」(常勤職員)を調べた。

この賃金月額は賞与や処遇改善費を含んだ年間の賃金を12カ月で割ったものとなる。開示請求で得られた411カ所のうち明らかな記載ミスのあった12カ所を除き、年換算した平均賃金は全体で約322万円だった。最も低いところは202万円で、年間賃金200万円台が散見されるなか、ぽむ・砧は約469万円で、全体のなかで4番目に高かったのだ。

保育士の処遇が「委託費の弾力運用」で改悪

認可保育園には、預かる子どもの年齢と人数、地域に応じて「委託費」と呼ばれる運営費用が自治体から各園に支給される。この委託費の内訳について、国は「人件費」を8割と想定し、残り1割ずつを保育材料費や給食費などの「事業費」、職員の福利厚生費や業務委託費などの「管理費」に充てることとされ、委託費は本来「使い切る」性質だとしている。

かつては、人件費は人件費に使うという使途制限があった。ところが2000年、それまでは公立以外では社会福祉法人にしか認められなかった認可保育園の設置が営利企業にも認められるようになると同時に「委託費の弾力運用」まで認められ、人件費を削って事業拡大に費用を回すことが可能となったのだ。その結果、保育園は増えたが、保育士が低賃金という状況に拍車がかかった。

ぽむ・砧を運営する生活クラブ生活協同組合は、国産、無添加、減農薬の「生協の食材宅配」で知られる。生協は営利を目的とせず、組合員が出資し合って利用し、事業を運営。「共に育つ地域を作る」と、助け合いを理念としている。

1986年に組合員が利用する「エッコロ」というたすけあい制度を作った。これが発展し、生協の組合員向けだけでなく、地域全体の助け合いのためにと福祉事業に乗り出し、2007年に認可外保育園が作られた。現在、生活クラブでは都内に認可保育所2カ所と小規模保育所2カ所を展開している。

生活クラブによれば、ぽむ・砧は2016年度当時、園児が0~2歳児の30人定員。補助金単価の高い乳児のみの園で配置職員数が少なかったことが影響し、賞与等を含む常勤保育従事者の平均月額賃金が39万870円(年換算で約469万円)と他の年度より高く数字が出たという特殊要因があったが、そもそもの保育参入が営利目的でないため、保育士や子どもの処遇のために委託費を「分配し切る」という本来の使途のあり方を実現している。

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