仏「TGVでコロナ患者輸送」、新幹線でも現実味 日本も九州新幹線で救急患者搬送の実例あり

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すでに実例はある。JR九州は地元の要望を受け、2011年の九州新幹線・博多―鹿児島中央間の全線開業に合わせ、新幹線を活用した救急患者の搬送を始めた。

「点滴が必要な方、人工呼吸器が必要な方、緊急搬送が必要な妊婦や新生児のほか、骨折、がんなどで長時間着席が困難な方が対象となります」(同社)

たとえば鹿児島では治療や手術が難しい患者を、高度医療が受けられる福岡の病院に搬送する。新幹線の車両に設置された多目的室が患者の搬送スペースに使われる。

ただ、これまでの利用実績は数件にとどまる。最近はほとんど利用がないという。ドア・トゥ・ドアで患者を搬送できるドクターヘリや救急車と違い、新幹線の場合は駅での搬送、搬出の手間がかかるという点が不便に感じられているのかもしれない。

日本も可能性はある?

しかし、大量輸送も鉄道の強みだ。フランスでTGVが使われた理由は高速性もさることながら、一度に大量の患者を輸送できるという点にあった。TGVのように1両に4人の患者を乗せるとすれば、16両編成の新幹線なら計算上は64人の患者を一度に運ぶことができる。

医療機器類をTGV車内に運び込むスタッフ(写真:SNCF)

万が一、日本のある都市で新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増えて病院の収容能力が限界に達したら、新幹線を使って大量の患者を別の都市に運ぶということはあり得るか。當瀬教授は、「実際の輸送を想定した場合の問題点は、感染していない乗客から、患者の隔離を確実に行わなければならないことだ」とコメントする。

JRの旅客営業規則では、指定感染症の患者への切符の販売は貸切乗車券に限るとされている。TGVでは患者の乗り降りに長時間を要したというから、一般の乗客の利便性を考えれば車両単位の貸し切りではなく、特別列車を仕立てて列車ごと貸し切ることになるだろう。とはいえ、「輸送中は専用車に隔離することで可能だとしても、出発駅、到着駅で一般の乗客と、動線を完全に分けることが肝要だ」(當瀬教授)。

さらに、感染患者を他地域に輸送するというアイデアはそもそも医療資源に余裕のある地域があることが前提だが、「大流行となっているのが、医療資源に比較的余裕のある、首都圏、京阪神、中京地区であることが大問題。あふれた患者を受け入れる余裕のある地方医療圏が見当たらない」と當瀬教授。東北新幹線の盛岡駅がある岩手県は4月4日時点で感染者報告がないが、他県の患者を受け入れる余裕がはたしてあるか。

こうした点も踏まえて、日本の関係者はフランスの事例を当然考慮に入れているだろう。ただ、もし実行に移すとしても、フランスのように短期間で実現にこぎつけることができるかどうかは別問題だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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