日本に「未曾有の事態」を乗り越える力はあるか 東日本大震災で学んだことを未来につなげる

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この究極のセーフティネットと出会って教えられたのは、逆説的ですが、人のつながりだけではダメなんだということでした。共同体なり、コミュニティなりに裏打ちされた人のつながりは、確かに人に安心感をもたらしてくれます。

しかし、人のつながりは、生存を保障するものにはなりません。生存の保障のためには、山水の恵みと、それを生かすための手業・知恵も必要になるのです。すなわち、人のつながりと山水の恵み、そしてその恵みを生かす力の3つが揃って初めて、私達は本当の意味での安心を手に入れることができるのです。

「山水郷」には究極のセーフティネットが残っている

それらが揃うのは都市ではなく、田舎です。田舎の中でも、森が豊かで、水に恵まれ、川や海や湖があって、かつ、人が古くから住んできた場所です。「古くから」とあえて言うのは、人が古くから住んできた場所は人が住むのに適している上、豊かな手業や知恵の伝統が受け継がれているからです。このような場所を「山水郷」と呼ぶこととします。

『日本列島回復論 この国で生き続けるために』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

山水郷には絶対的な安心の基盤、究極のセーフティネットが残っています。この山水郷に残る安心の基盤をうまく生かすことで、今の日本社会が直面している困難を乗り越え、普通の人でも安心して生きられる社会をつくることができるのではないか。三陸の孤立集落で究極のセーフティネットの姿を垣間見て以来、私は山水郷に次の社会をつくるカギがあるのではないかと考えるようになったのです。

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ここに書いたように、私は、三陸の孤立集落で見た光景から、山水郷にある人のつながりと山水の恵み、そしてその恵みを生かす力に、次の社会をつくるカギがあると予感した。その予感は、その後、各地の山水郷を訪ね歩く中で、確信へと変わっていった。

何をバカな、と思う人も多いことだろう。現実問題として、山水郷と呼ぶべき地域の多くは過疎に悩んでいる。だから、都市に暮らす人にしてみればもちろんのこと、山水郷のことをよく知る人ほど、もはや山水郷になぞ未来はないと思っているのではないかと思う。

だが、山水郷にある安心の基盤は、今の社会に絶対的に必要なものだ。それを何とか現代に生かすことができれば、私達はこの国が直面している困難を乗り越えることができる。そのために必要なのは、新しいテクノロジーだ。

山水郷を改造することで都市に近づけようとした20世紀的なテクノロジーでなく、山水郷のポテンシャルを最大限に引き出し、生きる場としての機能を回復するような、21世紀の新しいテクノロジーが求められている。

幸いなことに、今、私達は第4次産業革命と呼ばれる新しいテクノロジーの勃興期を迎えている。AI、IoT、ロボットなどの新しいテクノロジー群を使えるようになる。この新しいテクノロジー群を使うことで、山水郷を生きる場として回復させることができる。都会だけでなく、山水郷で暮らすことが現実的な選択肢になる分散型の社会を作ることができるのである。

9年前の大震災によって大震災によって山水郷の持つ、生きる場としてのポテンシャルの高さを教えられた。あの未曾有の事態にあっても、山水郷では人々が生き生きと暮らしていた。私達はあの大災害から学んだことを、どう未来につなげてゆけるのか考える時が来ている。

井上 岳一 日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト

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いのうえたけかず / Takekazu Inoue

1994年東京大学農学部卒業。米イエール大学大学修士(経済学)。林野庁、CassinaIXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。森のように多様で持続可能な社会システムの実現をめざし、官民双方の水先案内人としてインキュベーション活動に従事。2019年10月現在の注力テーマは「ローカルDXによる公共のリノベーション」。共著書に『MaaS』、『公共IoT』、『AI自治体』などがある。南相馬市復興アドバイザー。

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