現在進行中の大不況は今までの不況とは違う--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
経済学者と市場関係者の強気筋に共通する景気の見方は、「不況が深刻であればあるほど、それだけ回復は早い」というものだ。
彼らの見方はある点では正しい。不況脱出後の1年間の経済成長は、通常の経済成長よりも高い例が頻繁に見られる。だが2008年から09年の“大不況”は、今までの世界的な不況とは異なっている。
今回の大不況は金融危機によって加速し、通常よりも長期的な影響を及ぼす深刻なものとなっている。私は著書の中で、大不況というよりも“大収縮(グレート・コントラクション)”と表現するほうが好ましいと書いた。今回の不況でかつて例がないような国際的な信用と貿易、成長の大幅かつ同時的な収縮が起こったからである。
先進国の成長は低迷しているが、幸いにもアジアやラテンアメリカ、中東の発展途上国は大きな潜在的成長力を持っている。そうした国々が、厳しい国際環境の中で力強い成長を実現する可能性は高い。
それにもかかわらず信用の大幅な収縮の後遺症は、すぐには解消しないだろう。大手銀行は政府の直接的、間接的な保証を得て十分な資金を調達することができるが、一般企業、特に中小企業にとって厳しい信用状況が続くだろう。
楽観論者は「心配することはない。どんな企業も間もなく銀行と同じように資金の調達ができるようになるはずだ。1991年の世界不況のときも信用は枯渇したが、1年半も経たないうちに資金は活発に流入してきた」と主張している。
しかし、この比較は、今回の不況で銀行や家計のバランスシートが大きく傷ついた事実を認識していない。住宅価格は巨額の補助金で一時的に持ち直しているが、商業用不動産を襲った津波は依然として収まっていない。銀行の脆弱性は、政府保証で覆い隠されているにすぎない。