具体的には2019年3月23日、習近平・中国国家主席はコンテ伊首相と会談し、同構想に関する覚書に署名している。「一帯一路」構想にイタリアを引き入れる真意については、「イタリアの港湾都市を欧州進出の拠点として押さえること」という解釈が目立つ。イタリアの港湾都市へのアクセスが容易になれば、そこを起点としてEU域内へのアクセスも容易になり、「一帯一路」構想の広域経済圏がより強固さを増す。
イタリアとの合意にあたって習国家主席は3日間(2019年3月21~23日)、同国に滞在し、22日にはローマでマッタレッラ伊大統領と会談、23日にコンテ伊首相と会談した。中国首脳がローマに訪問し、イタリア首脳と会談すること自体に意外感はない。だが、その後、習国家主席自らがわざわざ港湾都市パレルモを訪れるということがあった。
EUへ向かう要衝、3つの港を押さえた中国
このとき、習国家主席の訪伊に合わせトリエステやジェノバといった2つの港湾開発を中国国有企業の中国交通建設集団が請け負うことでも合意している。東のトリエステ、西のジェノバはイタリア海運の要衝である。この2つの工事を中国の国有企業が請け負うという動きは、地政学上、EUにとって愉快なものではない。ちなみに習国家主席が訪れたシチリア島のパレルモ(南)まで含めて俯瞰すれば、3つの港を結ぶトライアングルが描ける。
主要なイタリア港湾都市へ戦略的投資を集中させた先には、隣接するオーストリアやスロベニアを皮切りに欧州主要国への輸送ルートが見えてくる。中国はここまで見据えているのだろう。
こうして中国がイタリアを通じて欧州で産業スパイ活動を展開したり、安全保障面での偵察活動を活発化させたりするのではないかといった点についてEUが警戒し始め、文字通り、域内に持ち込まれた「トロイの木馬」ではないかとの懸念も目にするようになった。
イタリアも満場一致で中国との関係を決断を下したわけではないが、自国経済が精彩を欠く中、「金の出し手」としての中国の魅力に抗しきれなかったことは想像に難くない。中国との関係を緊密化することでイタリアが対中輸出を伸ばすことができれば、低迷する自国経済の打開策にもなりうる。高品質の日本製がそうであったように、イメージの良い高級ブランド品を筆頭として「made in Italy」が中国の富裕層に訴求力を持つ。
片や、中国からすれば、これまで発展途上国を中心に勢力を拡大してきた「一帯一路」構想にG7の一角であり、欧州市場への玄関口にもなるイタリアを引き込めれば構想の信認も高まる。両者にとってwin-winの取り決めだったといっても的外れとは言えまい。
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