濡れ衣でリンチ殺人招いたSNSフェイクの恐怖 「自分ではない自分」がネット上に創られる

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「私は思ったんです。『私はフェイクだとわかっているから、フェイクだと気づけているだけなんだ』と。誰かがこれを見たとき、会社の人や友達がこれを見たとき、これは私だと思うのではないでしょうか。将来の家族や子どもが見るかもしれないし、私の子どもの友達もみるかもしれない。人生に影響を及ぼし続けるのです」

こうした動画はAI=ディープラーニングで作られたフェイク動画であるため、「ディープフェイク」と呼ばれています。オランダのサイバーセキュリティー会社ディープトレースの調査では、こういった動画は半年間で倍増。このうち96%の動画が女性をターゲットにしたものだといいます。

フェイク動画の96%は女性がターゲットに

どのように女性たちがディープフェイクに狙われているのか。私たちは、ディープフェイクの対策に乗り出している弁護士を訪ねました。カリフォルニアに住む、ドッジ弁護士が見せてくれたのは、ディープフェイクの作成依頼を受け付けているサイトです。そのサイトの掲示板を見てみると、

「知り合いの女性のディープフェイクを作ってほしい」

「作ってくれたら75$支払います」

といった依頼が書き込まれており、依頼したい女性の写真も添付されていました。

ノエルさんはSNSでの中傷にも屈せず、「本当の自分」を取り戻すため、市民1人ひとりに自らの経験を語り続け、オーストラリアのディープフェイク対策の法制化や同様の被害に遭った人たちへの支援を続けています。

アメリカや、ノエルさんが活動を続けているオーストラリアでは、ディープフェイクを規制する法律が制定され始めています。しかし、国境に関係なく、依頼や作成が行われているデジタル世界では、規制が追いつかないのが現状だと、ドッジ弁護士は指摘します。 

では、被害を止める手立てはないのか。ドッジ弁護士は、誰もが被害者になりうる時代だということを認識することから始めなければならないと言います。

「私たちは何気なくSNSに写真や動画を投稿していますが、それが悪用されるということを考える必要があります。写真がオンライン上にある限り、皆、その危険にさらされていると言っても過言ではありません。事件を防ぐと言うこと以外のことを考えなければいけません。なぜなら今のところ、事件を防ぐことはできないからです」

NHKスペシャル「デジタルVSリアル」取材班
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