濡れ衣でリンチ殺人招いたSNSフェイクの恐怖 「自分ではない自分」がネット上に創られる
メキシコで起きたフェイク殺人事件
2018年、メキシコ中部の小さな街アカトランで、フェイクニュースによる殺人が起きました。亡くなったのは、リカルド・フロレスさん(21歳)と叔父のアルベルトさん(43歳)。「子どもを誘拐した」という、無実の罪を着せられ、殺されたのです。
なぜ、無実の罪の人間が殺害されるに至ったのか。事の始まりは、SNSに投稿された、リカルドさんに関するフェイクでした。
「子どもを誘拐した男が捕まった」
「3人の子どもが連れ去られそうになっていたらしい」
この投稿がされたとき、確かに、2人は警察署の中にいました。この街に作業用の資材を購入するためにやってきた2人は路上飲酒をしており、警察に事情聴取を受けて警察署に連れて行かれていたのです。ただ、事情聴取を受けた理由は、誘拐とはまったく異なっていました。
なぜ、人々はこのフェイクを信じてしまったのか。背景にあったのは、人々の「不安」でした。メキシコでは、年間で推計8万件もの誘拐事件が起きています。その中で、リカルドさんたちが殺害されるこの事件が起きる数日前には、
「臓器売買目的の誘拐があった」
「15人の誘拐された子どもの遺体が発見された」
というフェイクが流れ、不安はピークに達していたのです。
そして、不安を感じる市民をあおるような動画が、事態を深刻化させていきました。
「これは誘拐犯の車だ。中にはお酒の瓶や鎖がある。これが証拠だ」
この動画は、まさにリカルドさんたちが警察署にいるときに撮影されたものです。車の中に入っていた作業用の鎖が、誘拐の証拠だと指摘され、市民の正義感を駆り立てていったのです。
「もうこれ以上、子どもたちの誘拐事件が起きてはいけない」
「警察が、誘拐犯を解放しないために、皆さんの支援が必要だ」
2人が事情聴取を受けている警察署の前には、150人の人が集まってきました。そして、釈放されるやいなや、大衆は、リカルドさんとアルベルトさんを人々の前に引きずり出し、殴る蹴るを繰り返したのです。そして横たわっている2人にガソリンをかけて、焼き殺すという事態にまでエスカレートしました。
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