パナソニック、BtoB重視も家電に期待する理由 目立つ会社、マネシタのDNAにこそ本領がある

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パナソニックだけでなく、BtoBを志向している日本の元BtoC企業では、かつて、NHKの人気番組「プロジェクトX ~挑戦者たち」で紹介されたドラマになるような「こだわりの商品開発」が少なくなったのではないかと筆者は感じている。

「パナソニックに限っては、そんなことはない」と否定されるかもしれないが、ではなぜ、高級家電を日本に定着させた英ダイソンや自動掃除機ルンバを生んだアメリカのアイロボットの後塵を拝しているのか。

値ごろ商品領域においても、家電市場新規参入組のアイリス・オーヤマが、気配りのある商品を開発している。毎週開かれる商品企画会議に創業者の大山健太郎会長が自ら出席し檄を飛ばす同社を見ていると、根性が据わっていると思う。

東京・浜松町にある東芝本社ビルの(山手線の線路を挟んで)向かい側のビルに東京の開発拠点の置き、東芝を早期、定年退職したベテラン技術者を採用し、蓄積された彼らの知恵をフル活用。大阪でも同様に、パナソニック、三洋電機、シャープを辞めた優秀な人材の力を生かしている。

ひいき目に見ても、パナソニックは慎重になりすぎたのかもしれない。私が約30年前に同社の掃除機開発を取材したときのことである。そのときすでに、ルンバそっくりの自動掃除機が試作されていた。筆者は、スムースに動き回り部屋を掃除する姿を見て、早く発売してほしいと思った。

それから、いつ出るのか、いつ出るのかと首を長くして待っていても一向に発売されない。途中でその疑問を投げかけてみると「人がいないときに使う自動掃除機となると、安全性を完璧に保証できるようにならないと発売できませんから」と開発責任者が説明した。本当にこれだけが理由だったのだろうか。「大企業組織の都合」が壁になったことは想像にかたくない。

BtoBシフトを口にしすぎた?

パナソニックの家電に元気がなくなった原因は複数あるだろう。そうであったとしても、最近、上層部の人から気になる一言を聞いた。

「たしかにパナソニックにとって、BtoBシフトは現在の基本戦略なのですが、津賀社長は、社内外でBtoBシフトを口にしすぎた感は否めませんね」

津賀社長は、BtoCを軽んじているわけではないだろうが、BtoBへ衣替えすればすべてがうまくいく、と言っているように一部の従業員には聞こえているのかもしれない。

なんだかんだ言っても、外から見れば、パナソニックは今も日本を代表する家電メーカーである。実際、BtoB領域の事業を見ても、家電で培った技術を法人市場向けにアレンジしたものが多い。家電で絶対的な競争力を取り戻すことにより、法人向け営業もより展開しやすくなるに違いない。

マーケティング担当者の間では、人々が欲しいモノ・サービスを提供すれば成功する、というのが定説のように思われているが、私は「人々が欲しがっているモノ・サービスよりも、何に困っているのかに注目せよ」と提言している。

今や、地球温暖化、高齢社会、そして現在、世界が大きく揺れている新型コロナウイルス感染など「困っていること」が急増している。松下幸之助氏の「事業を通じて社会の発展に貢献」という経営理念の実践が今ほど求められている時代はない。

そのため、このような難題を解決できる問題解決発見能力が求められている。はたして、パナソニックは、この意識を強く持ち、市場を開拓しているだろうか。例えば、介護事業に力を入れているが、成功しているとはいえない。社会貢献度は高いのだが、経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに応えて社会的価値も創造するCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)は実現できていない。

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