「新型コロナ」が金融危機の引き金になる可能性 怖いのは感染症だけでなく消費増税の継続だ

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民間債務比率が高まった経済は、ショックに対して非常に脆弱である。

例えば、100万円の投資では、株価が10%上昇すると、10万円の利益が得られる。もし投資家が、500万円の借金をして手元資金を600万円に膨らませるというレバレッジをかけると、株価の10%の上昇は、60万円の利益をもたらす計算となる。したがって、もし、株価が10%上昇する可能性が高いのであれば、500万円の借金をして投資をする「レバレッジ」は、確かに経済合理的な判断だ。

しかし、もし実際の株価が10%下落したとしたら、どうなるか。

レバレッジをかけていた投資家は60万円の損失を被ることになる。さらに500万円の借金をしていたので、その利息分も含めると、手元に残るのは40万円以下だ。

このため、この投資家は、手元資金を確保する必要に迫られて、保有していた資産を売り始めるだろう。これが、レバレッジとは逆の「デレバレッジ」である。

もし、多くの投資家がレバレッジをかけていた場合、デレバレッジが市場全体で一斉に始まることになる。その結果、資産価格は暴落し、金融市場はパニックに陥る。

金融市場にパニックが広がると、多くの投資家がファンドから資金を引き揚げようとし、ファンドは資金を返却するために株式を投げ売りし、株価が暴落する。また、多くの預金者が同時に預金の引き出しに殺到するので、健全な銀行であっても預金の返還に応じられずに破綻する。これが、金融危機のメカニズムである。

このメカニズムを作動させるトリガーを、新型コロナウイルスが引いた可能性があるのだ。そして、過去の例で見ても、資産バブルの崩壊に端を発する不況は、長期化する傾向にある。

最悪を想定すべきは経済

金融危機がどこで勃発するのかについてまで正確に予測することは難しいが、金融のグローバル化が進んでいるので、どの国で勃発しようが、それは世界全体へと波及する。

目下、特に懸念されるのは、昨年からジャネット・イエレン前FRB議長国際決済銀行 も警鐘を鳴らす、CLO市場の急拡大である。CLO(ローン担保証券)とは、レバローン(信用度の低い企業に対するローン)を裏付け資産とする証券化商品であり、その市場がリーマンショック前夜と同水準にまで拡大していた。そのCLO市場の崩壊が経済危機を増幅するリスクが高まっているのだ。

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また、ユーロ加盟国の場合、政府債務はユーロ建てであって自国通貨建てではないから、民間債務と同様、政府債務もデフォルトのリスクを抱えている。しかも、イタリアなど財政に問題がある国ほど、医療体制が脆弱であるため、感染拡大が深刻になり、経済への打撃も大きくなるので、財政破綻のリスクがより高い。

そして、日本の金融機関も、長期に及ぶ超低金利のため、収益が悪化し、レバローンを買い進めたため、脆弱性が高まっている。

日本銀行「金融システムレポート」(2019年10月)によると、銀行の資金利益(資金運用で得た利益-資金調達費用)は、リーマン・ショック後を下回っている。

また、邦銀によるレバローンの引受額が、2013年以降、急増し、米欧の金融機関をはるかに上回っているということである(「週刊東洋経済」2020年3月21日号)。CLO投資についても、特に農林中央金庫とゆうちょ銀行が急増させていた。

感染症対策やリスク・マネジメントの専門家たちは、しばしば「最悪を想定せよ」と説く。しかし、経済に関しては、政府は、最悪を想定しているのであろうか。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2003年にNations and Nationalism Prize受賞。2005年エディンバラ大学大学院より博士号取得(政治理論)。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『政策の哲学』(集英社)など。主な論文に‘Hegel’s Theory of Economic Nationalism: Political Economy in the Philosophy of Right’ (European Journal of the History of Economic Thought), ‘Theorising Economic Nationalism’ ‘Alfred Marshall’s Economic Nationalism‘ (ともにNations and Nationalism), ‘ “Let Your Science be Human”: Hume’s Economic Methodology’ (Cambridge Journal of Economics), ‘A Critique of Held’s Cosmopolitan Democracy’ (Contemporary Political Theory), ‘War and Strange Non-Death of Neoliberalism: The Military Foundations of Modern Economic Ideologies’ (International Relations)など。

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