そして、2019年10月の消費税増税は、世界経済と日本経済の景気後退局面において断行されたという点において、過去の消費税増税時とは際立って異なっている。しかも、その直後に、新型コロナウイルスによる不況が、中国、日本そして世界を襲ったのである。これは、1997年の消費税増税時よりも、さらに性質が悪い。
目下、人々はパンデミックの勃発に目を奪われているが、現在、日本経済が被っている経済的な打撃は、新型コロナウイルスによるものだけではない。その前に、すでに実質GDPマイナス7.1%(年率換算)という深刻な不況に陥っていたのである。その原因は、言うまでもなく、景気後退期の消費税増税である。
言い換えれば、消費税増税によるデフレ圧力が、新型コロナウイルスによる打撃を増幅したということである。例えるならば、消費税増税によって体力を奪われ、抵抗力がひどく弱っているところに、新型コロナウイルスに感染したようなものだ。
したがって、仮に、新型コロナウイルスが早期に制圧されたとしても、消費税増税による不況の影響は、継続する。しかも、消費税は、継続的に消費を抑制し続けるのである。
金融危機の「予兆」と民間債務
さらに、とくに気を付けなければならないのは、今回の新型コロナウイルスが金融危機の引き金を引くというシナリオである。
リーマン・ショックなど過去の金融危機は、金融面におけるショックが実体経済へと波及した。しかし、今回は、パンデミックがまず世界経済の実体面にショックを与え、それが金融面に波及して金融危機を引き起こし、その金融危機がさらに実体経済にショックを上乗せで与えるという、さらに悪質な経路となる。
なぜ、金融危機を懸念しなければならないのか。
それは、過去数年間で、中国など主要国を含むいくつかの国や地域で、金融危機の予兆があったからである。
リチャード・ヴェイグは、過去の金融危機の例を分析し、対GDP比民間債務が5年間で18%程度増加し、150%を超えると金融危機が起きるという仮説を立てている。
例えば、2008年のリーマン・ショックでは、2002年から5年間で対GDP(国内総生産)比の民間債務が20%増え、170%に達した。日本のバブル崩壊では、1985年から5年間で対GDP比民間債務は28%増え、213%に達した。ほかの金融危機の例でも同様の傾向がみられるという。
ただし、ここで問題になるのは、民間債務である(The Next Economic Disaster: Why It's Coming and How to Avoid It)。自国通貨建ての政府債務は、関係ない。なぜなら、自国通貨建て政府債務は、デフォルトすることがありえないからだ。
さて、現在、対GDP比民間債務が、①5年間で18%程度増加し、②150%を超える国は、どこか。
①②の両方に該当するのは、香港、カナダ、中国、フランスである。シンガポールも、その数字に近い。
なお、アメリカと日本は、②のみ該当する(DEBT ECONOMICS「Review the data」)。
これらの国や地域、とりわけ香港、カナダ、中国、フランス、シンガポールでは、バブルが発生していた可能性が高い。
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