欧州パンデミックに放ったラガルド・バズーカ 金利の抑制へ、大規模国債買い入れが流行か

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現在のECBのバランスシートが約4.7兆ユーロであることを思えば、7500億ユーロは16%に相当する巨額である。しかも、7500億ユーロを月次で使うとはいっていないので目先、容赦ないECBの市場介入が予想される。その上で、「必要な限り資産購入の規模や構成を強化する用意もある」と宣言されている。定例会合で決定した企業の資金繰り支援と合わせ、ECBは全てを出し切ったと言えるだろう。

また、ECBに加えて、行政府、すなわち欧州委員会も何らかのアクションに出てくる可能性がある。現時点でブルームバーグはユーロ圏当局者が恒久的な救済基金である欧州安定化メカニズム(ESM)を稼働させ、ユーロ圏各国政府向けに信用枠の設定を検討していると報じている。ちなみにESMの支援を受け、コンディショナリティ(支援の際に課された条件)をこなしていると、ECBの無制限国債購入プログラム(OMT:Outright Monetary Transaction)が使えるようになる。

政府債務の拡大に中央銀行が協力する構図に

OMTは一度も使われたことのない「抜かずの宝刀」であり、ドラギ前ECB総裁の名言「do whatever-it-takes(なんでもやる)」の実質的な回答として設けられた政策だ。OMTの発表を契機として欧州債務危機が沈静化したとの声は多く、ドラギ前総裁の最大の功績としても知られる。しかし、使用実績がないため、その実効性に疑義を抱く識者も少ない。

いずれにせよESMをめぐる挙動とこれに伴うOMTの出動があるのかないのかには当面注目したいところであるが、今回決定されたPEPPは規模や運用面の柔軟性などに照らせば、実質的なOMTでもあり、むしろそれよりも使い勝手がよさそうである。OMTの場合、前述のようにESM支援と引き換えに課せられるコンディショナリティをこなす必要があるからだ。

繰り返しになるが、パンデミックが起きる中で政府債務負担が増すことへの不安が募り、金利も上がってしまうという最近の動きは非常に都合が悪いものであるため、今回ECBが踏み込んだような大型の資産購入策は各国でも、今後、検討されてくる可能性があるだろう。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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