無人コンビニが中国では不人気に終わった理由 運営会社は毎月8000万円の赤字を垂れ流し

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そう言えば、さっきの男性も出口手前で壁に向かってペットボトルをユラユラと振りながら近づけていた。そのとおりにすると扉が解錠され、外に出ることができた。万引き防止のためのシステムだが、慣れないとちょっと難しい。

ハイテク技術が使われていることは間違いないのだが、最初から最後までとにかく殺風景。軽い虚無感のようなものを抱きながら、無人空間を後にした。

<体験後記>
最先端技術を駆使した無人コンビニだが、意外にも衰退の岐路に立たされている。中国のIT事情に詳しいライターの山谷剛史(やまやたけし)氏は、2019年秋、「『中国スゴイ!』と持ち上げられた無人コンビニ、バブル崩壊でただの箱に」(文春オンライン)と題した記事を執筆した。

山谷氏によると、最先端技術と持てはやされた無人コンビニは2018年6月には全国で400店舗まで拡大したものの、次第に客足が遠のき、運営会社は毎月500万元(8000万円)の赤字を垂れ流していたという。

従来の有人の店舗よりコストはかからないものの、客からすれば入店時にいちいちスマホを操作したり、レジで商品を並べて識別させたりするのがストレスとなり、忌避されたらしい。

「無人コンビニ」日本では成功するのか?

確かに最初は物珍しさから試してみたくなるが、これが日常となると面倒くさいだけかもしれない。カギを開けたり閉めたり、一手間も二手間も余計にかかる。また、近くにコンビニや自販機がなくても、中国の場合は配達サービスで十分代替できる。

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無人コンビニの失敗から得られる教訓としては、“本当に便利なものだけが生き残る”という当たり前の話かもしれない。

無人コンビニというアイデアは面白いし、コストも抑えられる。だが、実際に使ってみると、普通のコンビニのほうがずっと楽。今後、顔認証機能やICタグの精度などが上がれば変わるかもしれないが、現時点では、もう一歩及ばなかったようだ。

日本でも、すでに無人コンビニは試験的に導入されており、今後、駅構内などに設置される見通しだ。中国における課題と教訓が生かされることを願っている。

西谷 格 フリーライター

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にしたに ただす / Tadasu Nishitani

1981年、神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に、『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『中国人は雑巾と布巾の区別ができない 』(宝島社新書)などがある。

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