トヨタ「ベアゼロ」が示す賃金制度改革の布石 春闘のベア交渉はこれが最後になる可能性も

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3月11日の回答日、豊田章男社長は労使協議の場で、「これからの競争の厳しさを考えれば、すでに高い水準にある賃金を引き上げ続けるべきではない」とする一方、「トヨタで働く人たちの雇用は何としても守り抜く」と断言した。

経営側が交渉の中で繰り返した「競争力」は、もはや自動車業界内だけの話ではない。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)をキーワードに海外のIT企業の大手など異業種からの参入も相次いでいる。

競争の相手もルールも変わる「100年に一度の変革期」と言われ、トヨタは「自動車メーカーからモビリティカンパニーに変わる」として、さまざまな変革を進めている。あるトヨタ幹部は「賃金制度も働き方も変えていかないと、グーグル(などのIT大手)には勝てない」と危機感を示す。

年功序列の賃金制度もなくなる?

2014年以降、トヨタはベアを継続してきたが、製造業の筆頭格として、デフレ脱却に向けた政府の賃上げ要求に事実上応えてきた側面もある。ただ、結果としてトヨタのベアの水準が天井となってしまい、大手企業と中小企業の格差是正が進まないとの問題意識が経営側にあった。

そこで2018年以降はベアの実額を非開示として、産業界の賃金交渉の目安となる立場からも降りた。2019年5月には、日本自動車工業会会長の立場から、豊田氏は「終身雇用(の象徴)と言われてきた日本の自動車産業も多様化してきている」と述べ、終身雇用制度の限界を示唆。そして今回、業績が堅調な中でもベアゼロを決めた。

2021年以降、トヨタの春闘でベアが交渉のテーマとならない可能性が高い。今回の春闘の第2回目の交渉で会社側は、「賃金制度改善分(ベア)のみではなく、根元から、賃金制度維持分の昇給分も含めて、頑張りを反映させるよう、来年から(賃金制度を)変えていくべきではないかと考えている」(桑田副本部長)と言及しているからだ。

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この方向性について労組側も同意しており、2019年に設置した労使の専門委員会で議論を行う。そして、早ければ2021年にも制度変更が行われる。前出のトヨタ幹部は、「働き方に応じた賃金制度を作る。年功序列も壊したい。理想を言えば、(トヨタ単体の)社員7万人分の賃金体系を作らないといけない」とまで言う。最大のハードルは、従業員が納得する評価制度を構築できるかだ。

ベアゼロというサプライズを経て、トヨタが推し進める賃金制度改革はどう着地するのか。今後1年の議論の行方は、ほかの会社にとっても決してひとごとではないだろう。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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