コロナ対応「全国一律」が有効策とは言えない訳 未知の課題を素早く解くためのアプローチ

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つまり難しいうえに時間制限がある問題の場合は、数多く試行して素早くそれを評価するほうが、有識者が集まって最適解を会議室で検討するよりも答えに早くたどり着く場合があるのです。

クラボウがPCR検査に代わる新しくよりよい検査キットを発表して話題になっています。実はコロナウイルスの検査については処理能力が限られているだけでなく、PCR検査の正確性に課題があるという問題があります。さらに計画として1日1000キットの販売が目標というように供給力に上限がありそうです。

加えて感染者の8割が無症状なのに、それらの人を隔離してしまうと病床が足りなくなるという問題も考慮すると、こういった新しい機器を導入するのか、それとも性能がきちんとわかるまで利用しないのかといった政治判断も必要になります。

そのような新しい問題の場合もこの分業アプローチは適用可能です。たとえば「感染が多い都道府県2カ所と普通の都道府県2カ所」でそれぞれ「陽性の患者は従来通りの対応、ないしは特例として重症者以外の陽性患者は自宅待機」という対応を決めた4つそれぞれ対応が違う都道府県でこのようなキットで1日250件ずつ検査を行うと決めてみます。そのうえで影響を調べてみて、いちばんよさそうな対応を広げていくことで対応を絞っていくことができるようになります。

民主主義国家には中国のような強権がないだけに

実はこのようなやり方は、日本だけでなく海外で感染が広がっている国家のうち、イタリア、フランス、ドイツ、アメリカといった民主主義国家では必要な問題解決法だと私は思います。

それとは反対に、中国のように国家権力ですべてを抑え込むようなやり方でのパンデミック対策ができる国があるのですが、民主国家、自由主義国家ではその対策は難しいのです。難しいからこそ国民に選択肢が見えるようにしたうえで、それぞれの利点、不利益な点をつまびらかにし、短期間でその差がわかるようにしたうえでそこからなるべくよさそうな対処法を選ぶ。そういったアプローチのほうが民主主義での緊急事態には向いているのです。

「20分後に爆弾が爆発する」というのはトレーニングでのわたしにとっての架空の条件設定でしたが、パンデミックに関していえば、置かれている状況は類似しています。じっくり議論をして検討したり、これまでのルールに沿って治療法を慎重に臨床実験したりするという方法では解決が難しい時限問題。そのような問題はこういった分業方式が実はアプローチとしては向いている。

これは経済特区の考え方と実は同じです。あるエリア全体で規制緩和することで、そこで経済が発展するかどうかを実験するあのやり方です。コロナの問題も、権限が集中した厚生労働省の現場がほぼパンク状態だという現実を考えると、権限移譲しながら各都道府県がそれぞれの最適解を模索する方法を考えても良いのではと思えるのですが、どうでしょうか。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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