「人はお金で動く」と信じる人の決定的な誤解 行動経済学の世界的権威が説く「幸せな報酬」

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富永:この文脈では、報酬という制度そのものが役に立たないのでしょうか。

ダン:モチベーションと報酬は異なります。人にやる気を与えられないという意味ではありません。私が研究室で実際にやった事例をお教えしましょう。

2年前、年末に研究室のメンバーに何をあげようか考えました。毎年12月に、贈り物をしているんです。さて、ボーナスを出すこともできたし、靴下をプレゼントすることもできた。ギフトカードを贈ってもよかった。でも私が考える贈り物は、後ろ向きの報酬ではないんです。「これをしてくれてありがとう」というような報酬にしたくない。前向きにしたいんです。

ただの労働者ではなく人として

ダン:私の報酬は、相手に向かって「私はあなたのことを、ただの労働者ではなく人として大事に思っている。あなたに成長してほしいし、私のことを覚えていてほしい」ということです。

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そこで何をしたかというと、研究室のメンバー全員に、仕事をする私の部下としてではなく、人間として学びたいことを半ページ書いてもらった。「あなたが学びたいこと、それを学びたい場所を教えてくれたら、10日間、あなたをそこへ送り出してあげます」と言ったんです。漫画を学びに出かけた人もいるし、瞑想を学びに出かけた人もいた。ドラムなど、それこそいろんなことをしに各地に行きました。

それから丸1年というもの、いろんな人が出かけては帰ってきて、何をしたかを話してくれました。私にとっても、非常にいい報酬でした。これは「あなたは私のためにこれをしてくれた。だから、これがお返しです」と言って与えるものではありません。

そうではなくて、私が相手を個人として大事に思っていて、成長してほしいと思っているという気持ちを表すものです。

富永:多くの企業があなたから学ぶべきですね。とくに、「将来を見据えた報酬」という概念はいいと思います。とても重要なことです。本当は教えてもらう必要がないくらい自明なはずですが、すべての企業がつい忘れてしまうようです。

ダン・アリエリー デューク大学教授

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Dan Ariely

1967年生まれ。過去にマサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院とメディアラボの教授職を兼務したほか、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン高等研究所などにも在籍。2014年にはNHK Eテレ「お金と感情と意思決定の白熱教室」に出演して話題を呼ぶ。『アリエリー教授の「行動経済学」入門』(早川書房)など著書も多数。

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富永朋信 Preferred Networks執行役員・最高マーケティング責任者

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とみなが とものぶ / Tomonobu Tominaga

日本コカ・コーラ、西友などでマーケティング関連職務を歴任し、ドミノ・ピザ、西友など4社でマーケティング部門責任者を拝命。社外ではイトーヨーカ堂、セルムの顧問、厚生労働省年金局年金広報検討会構成員、内閣府政府広報室政府広報アドバイザー、駒沢大学非常勤講師などを務める。日経クロストレンドなど、マーケティング関連メディア・カンファレンスなどのアドバイザリー、ボードメンバーなど多数。

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