「人はお金で動く」と信じる人の決定的な誤解 行動経済学の世界的権威が説く「幸せな報酬」

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(出所)『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP社)

ダン:さらに、2006年から2018年まで、企業約800社を対象に、従業員の処遇に関する80項目と株価との関係を調査しました。

(※)調査項目は「自分の仕事が評価されていると感じる」「職場で安心できる」「経営陣の期待」「物理的な職場環境」「椅子と机」「福利厚生」など。それぞれの設問に対する満足度が最もいい企業上位20社を選び、それらの株価の動きをまとめたインデックス(指数)を作成。
そのうちのいくつがS&P500種株価指数より高いパフォーマンスを上げるか調べたところ、実はS&P500を上回ることが非常に簡単なことがわかった(逆に下位20%の企業を選んだ場合は、ほぼすべてがS&P500を下回った)。

ダン:ここでやろうとしたことは、従業員の処遇方法の中で、企業が株式市場で最も成功するようにする要素は何かを見つけることでした。例えば、「給料」はそれほど重要でないことがわかりました。給料を増やしても、企業の業績は向上しません。一方、「給料の公正さ」はとても重要でした。

富永朋信(以下、富永):公正さは確かにとても重要ですね。

悪意のないミスをどう評価するか

ダン:ええ、そのとおりです。そして本当に重要なことは、オートノミー(自主性)と関係していること。中でも、「この会社では、悪意のないミスが評価されると感じるか」という問いへの回答が、最も重要なカギの1つでした。

従業員が「この会社では悪意のないミスが評価されると感じる」としたら、これは何を意味するでしょうか。まず、従業員がオートノミーを持っていなければならないということです。なぜなら、言われたことだけをやっていれば、ミスは犯さないからです。ミスを犯すということは、取れる行動がいくつかあったことを意味します。

悪意のないミスがプラスに評価されるとき、これは会社が「結果」よりも「意図」を大事にすることを意味しています。従業員に自由を与え、信頼を与えている。信用している限り、ミスがあってもいい。悪意のないミスは評価されるということです。これが株式市場のリターンを予測する最大の要因の1つでした。それ以外は、オートノミーや公正さです。これらが最も大きな予測要因でした。

また、「重要でないことが何か」を知ることも重要です。例えば、私たちの研究では、医療保険のような「福利厚生」はあまり重要でないことがわかりました。「オフィスの家具の質」もあまり重要でないことがわかりました。「肩書」もあまり重要でないことがわかりました。つまり企業を本当に前進させるのは、社員が会社とつながっていると感じ、余計に頑張ろうとすることなのです。

自動装置のような人がいて、ただ言われたことだけをしていたら、その人には非常に限られた価値しかない。一方で、会社のミッションに本当に興奮している人がいる。欲しい人材はその人です。これはただ契約で手に入るものではない。その人との互恵関係から得られるものです。会社の成功と自分の成功が同じものだということを心から受け入れることから得られるものです。

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