「うちの社長はダメだ」と嘆く社員に欠けた視点 日本の大企業を蝕んでいる原因は何なのか

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4. こうして「相談役―会長―社長」の盃が固められ、経営は思考停止する

会長、つまり先代社長ができない奴を社長に指名するということは、先代社長自身も先々代社長=今の相談役に、そのようにして選ばれたということだ。社長は会長(先代社長)に一生恩を感じ、会長は相談役(先々代社長)に一生恩を感じ、何代にもわたる上下関係が出来上がる。

こうして見てくればわかるように、社長になったと言っても、自分の下に対する権力は絶大だが、自分の上に対しては、頭がまったく上がらない。会長が、もしくは相談役が、経営に口を出してしてきたら、それに従わざるをえない。

企業統治改革の一環で顧問や相談役制度を廃止する動きに踏み切った企業もあるが、まだこの制度を導入している企業も多い。参考:『「相談役・顧問」が多い企業100社ランキング』(2019年08月14日配信)

だから、社長になっても、思い切ったことはできない。特に、先代社長、先々代社長がやったことを否定することなど、もってのほかである。社長になって新しい経営戦略を打ち出すよりも、先代社長、先々代社長のやったことを尊重してやっていくことが、社長の至上命題となる。

いつまで経っても日本株式会社は足踏みしている

結果として、会社は環境変化への対応ができなくなる。例えば、今の時代なら、デジタル・トランスフォーメーションを図り、過去のビジネスモデルを捨て去らなければならないが、そんなことはできない。先代社長、先々代社長が築き上げた大事な既存モデルを捨て去ることは許されない。

こうして、日本の会社では、環境変化への対応が遅れ、十年一日のような日々が続く。動きの早いアメリカ企業や中国企業にどんどん遅れていく。

5. 日本企業は何を変えていくべきなのか

ここまで見てくれば、日本企業の問題点と処方箋は明らかだろう。

仕事のできない奴が仕事のできない奴を社長に選ぶという仕組みから、思い切ったことのできる奴を社長に選ぶという形に変えていかなければならない。

社長(代表取締役)は、取締役会で選ばれるのだから、まず、取締役から、社長の取り巻きを外していくことが必要である。株主が取締役候補を精査して、社長の取り巻きには反対票を投じて、会社の利益を第一に考えるような人だけに賛成票を投じるべきである。

これを徹底すれば、取締役の多数は社外取締役になる。社長は、彼らの支持を得ることで、初めて社長に選任してもらえるのだから、社長は、当然会社の利益を第一とし、会長や相談役の意見には耳を貸さなくなる。

そもそも、改革を妨げる意見を出すような相談役や会長は必要ない。全廃するのが筋だろう。素早い改革が行えるように、社長に全権を与え、その経営戦略実行の成果を取締役会がつぶさにモニタリングする。勿論、成果が出ないなら交代させる。

こうした健全なガバナンスが実現することで、初めて、日本企業もアメリカ企業や中国企業のように素早く環境変化に対応し、ビジネスモデルの変革ができるようになるはずである。次の30年が失われた30年とならないことを祈りたい。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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