日本人の心をつかんだ「台湾・卓武珈琲」の秘密 標高1200mで栽培、こだわりの精製が大人気

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この農園は、もともとはお茶の農園だった。当時、37年も茶葉栽培に従事してきた許峻栄氏は悩んでいた。お茶は収穫や手入れの際にケガをすることが多く、加えて害虫の被害に遭うと収穫も思うようにいかない。そこで専門家に尋ねたところ、「コーヒー豆こそ地球上で石油に次ぐ産業」と聞き、茶農園からコーヒー農園への切り替えを決心した。

コーヒー農園として再スタートした卓武珈琲の農園に行くと、台湾のコーヒー史の生き証人を見ることができる。それは樹齢75年、4株のティピカ種というコーヒーの木だ。今も実をたわわに実らせている。

許峻栄氏によると、この4株は12年ほど前に南部・高雄市の那瑪夏(ナマシャ)区から移し替えられたものだという。この木は台湾で本格的なコーヒー豆の栽培が始まった、戦前の日本統治時代に植えられた木の2代目に当たるという。

現在、台湾コーヒーの消費市場は成熟期を迎え、栽培技術に注目が集まっている。海抜1200メートル以上に位置する卓武珈琲では、アラビカ系統でティピカ種の変異種である「パーピュラセンス」と「卓武1号」と名付けられた大粒品種を栽培している。年間生産量は5ヘクタールの作付面積で7トンになることもあるそうだ。

こだわりの栽培方法が木を守った

高山地帯におけるコーヒーの収穫時期は、12~3月ごろである。取材に訪れた12月は、ちょうど3回目の収穫のタイミングだった。赤く色づいた実がある一方で、まだ緑色をした実も見え隠れしている。

コーヒーの実は一斉に熟すわけではなく、収穫のためには農園へ何度も通い、人の目と手で一粒一粒、熟しているかどうかを確認する必要があるのだ。1杯のコーヒーのために、収穫だけでも多大な人件費がかかっていることがわかる。

農場の2代目である許定燁(きょ・ていよう)氏は、コーヒーの実を味見させてくれた。彼は「コーヒーの品種によって実の甘さが異なるのです」という。卓武農園で収穫された実のうち、商品になるのは粒の大きなトップグレードのみ。グレードの低い小さな実は、商品として世に出ることはない。

栽培方法も独特だ。一般的にコーヒーの木は8センチほどの深さで植えられるのに対し、許峻栄氏は40センチほどの深い穴を掘ってコーヒーを植えるという。その深さは、実に5倍。峻栄氏は「生命とは自身で生き残る道を探し出すもの」という哲学を持つ。

事実、彼が植えたコーヒーは深く、広い土のなかで根をどんどん張りめぐらせ、簡単には倒れない立派な木へと成長するのだ。その結果、2009年に台湾中南部に甚大な被害をもたらした「八八水害」でも、卓武珈琲の3200株のコーヒーの木はビクともしなかったという。

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