日本人の心をつかんだ「台湾・卓武珈琲」の秘密 標高1200mで栽培、こだわりの精製が大人気

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確かに阿里山はコーヒー栽培に適した環境ではある。それでも許峻栄氏は、さらに品質を上げるために有機肥料を自身で調合するなど20年近くも多くの実験を続けてきた。そして息子の許定燁氏が事業に加わると同時に、スマート農業も導入しようとしている。

卓武珈琲は他企業との連携も行っている。さらなる品質と生産の向上のためだ。4年前、農業・バイオ事業を手掛ける『正瀚生技(CH Biotech)』がコーヒー産業に着目し、コーヒー栽培の研究と研究施設へ20億台湾ドル(約72億円)を投じた。卓武珈琲はそのCH Biotechと提携した農場の第1号となった。その後、農場で土壌分析などの実験を経た結果、コーヒーの実の平均生産量は14%以上も向上したという。

品種改良へ、あくなき探求

どこまでも理想の品質を追い求める許峻栄氏について、妻の余秀錱(よ・しゅうちん)氏は老眼鏡をかけて豆の選別をしながら、「こだわりすぎですよね」と苦笑する。

いい豆を作ることは確かにたいへんだ。でも彼女はこう付け加えた。「お茶をつくっていた時代と比べて、今は自分にとっても、従業員の身体にとってもよい環境になりました」。お茶の栽培をしていた頃は1年に12回も農薬を撒いていたが、コーヒー豆の栽培に切り替えてからは、多くても年に2回程度しか散布しなくなったという。

アラビカ系の変異種と大粒品種を栽培している(写真:陳弘岱)

門外漢からコーヒー王にまで登りつめた許峻栄氏だが、彼はそれに満足することなく、今も新しい苗を研究している。接ぎ木による品種改良を試みており、息子の許定燁氏によると、コーヒーの木は接ぎ木をしてもDNAは変わらないまま、風味がさらに高まるという。許峻栄氏は親株を守るだけでなく、さらに新しい品種を生み出そうとしている。

卓武珈琲では、豆の精製方法も独自の方法をとっている。彼らが編み出した発酵方法を用いたコーヒー豆は、ジャスミン茶や柑橘系の香り、そして高山の樹木のような独特な香りを放っている。さらに、かすかにチョコレートやキャラメルの香りを漂わせる。

精製方法は豆に「日光浴」をさせ、その後、卓武山を流れる低温の川に浸して作り出す。こうして大自然の洗礼を受けたコーヒー豆からいれるコーヒーは、柔らかな味の中に、甘く芳醇な香りを漂わせる。「天の時、地の利、人の和」の3要素がそろって100グラム1000台湾ドル(約3600円)の豆が生み出される。(台湾「今周刊」2020年1月6日号)

台湾『今周刊』
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