「発達障害」と言い難い子どもが量産される背景 医療現場で起きている誤診・過剰診断とは?
私が当惑した理由は、そもそも成績が普通で、友達と鬼ごっこやしりとり遊びができ、私の質問に的確な答えを返してくるこの男児に「重度自閉症」という診断書を出す医師、それも発達障害専門をうたっている医師がいる、ということです。その医師がどのようなアセスメント(診療、査定)や心理テストをしたか、ということは、この男児の場合には関係ありません。
小学校の通常の学級に通い、普通の成績をおさめ、さらに褒められることではないにせよ、口げんかで友人をやり込めることのできる子どもに、重度自閉症という診断をすることの医学的な矛盾に気がついていない医師がいる、ということに私はびっくりしてしまいました。もちろん、医師は誤診をすることがあります。いわゆるグレーゾーンに入る自閉症などの診断は専門医にも難しく、結果として誤診することはありうるでしょう。
しかし、この男児を重度自閉症とすることは、血糖値が高くないのに糖尿病の診断をするのに匹敵する誤診だと思います。発達障害の専門医であるならば、重度自閉症といえば、まず言葉によるコミュニケーションがほとんどできない状態の子どもを想起するのが普通なのです。
その後、母親に男児が保育園に通っていたころの行動の特徴について思い出してもらいました。保育園では落ち着きがなく、日常生活のルーチンができない子どもだったそうです。
重度自閉症というよりはむしろ、注意欠陥多動性障害を思わせる特徴であったために、母親と現在担任の教師に、注意欠陥多動性障害のスクリーニングで使用されるチェックリストをつけてもらいました。その結果、とくに学校での行動で注意欠陥多動性障害を疑わせる結果でした。
普通学級に通う、成績が中ぐらいの小学生が、友達に乱暴をしたことで発達障害を疑われ、地元の発達障害の専門医から「重度自閉症」という診断をつけられて、セカンドオピニオンを求めて私の外来を受診したという事実に、発達障害の診療の医学的水準に危機が迫っていることを実感しました。
現在の日本の教育体制の中で、重度の自閉症の子どもが通常学級に通い、普通の成績を取るということはまずありえないのです。そのことに気がつかない医師がいることは極めて憂うべき事態です。
女性の注意欠陥多動性障害は見逃されてきた
また、近年新しく知られるようになったこともあります。これまで主に子どもの障害であると考えられていた注意欠陥多動性障害が、大人にも見られることがわかったのです。また、圧倒的に男児に多いと見なされていたことも誤りであったことが明らかになりました。
男児に多いと思われてきた第一の理由は、そもそも注意欠陥多動性障害の症状に大きな男女差があり、女性の注意欠陥多動性障害は見逃されてきたことがわかったのです。気づかれず、診断されず、そして当然のことながら治療されずに生きてきた成人女性で、対人関係の構築や、日常生活の困難により、うつや不安障害などの二次障害に悩む人が大勢いるのです。
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