「金価格はこれから一段と上昇する」と読む理由 すでに日本円は「安全資産」ではなくなった
そうした状況に追い討ちをかけるように、金の上昇を後押ししているのが、安全資産としての金に対する、逃避資金の一極集中だ。もともと今のように市場の不安が高まる局面では、米国債や円、スイスフランといった金以外の安全資産にも買いが集まるものだ。だが、今回はさまざまな理由によって、そうした市場への資金流入が鈍っており、金に対する買い意欲が余計に強まる結果となっている。
その中でも特に影響が大きいのが、円安ドル高の進行だろう。船内感染が発生したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号に関する対応のまずさもあって、COVID-19の日本国内での感染拡大に対する不安が高まっているのに加え、2019年10-12月期のGDPが消費増税の影響などによって年率換算で6.3%も大幅マイナスとなったことを受け、足元では円安が急速に進んでいる。
市場はすでに円を安全資産とは見なしておらず、ファンダメンタルズの脆弱さに対する懸念が高まる中で、日本から資金を引き揚げようとする動きが急速に進んでいるというのが実際のところだろう。COVID-19の感染拡大の影響を考えれば、1-3月期のGDPが前期(2019年10-12月期)以上の落ち込みとなるのは避けられず、日本は(リセッション(景気後退、2四半期以上連続でマイナス成長となること)に陥ることになるだろう。円安の流れは、この先さらに強まる可能性が高いと見ておくべきだ。
こうした中、円建ての金価格の上昇にも注目する必要がある。普通なら金が上昇する時には、同じ安全資産としての円も上昇するため、円建ての金価格は動きが鈍くなるものだが、こうした金と円の相関関係は昨年末あたりから崩れており、円建て価格の上昇圧力はドル建て以上に強まっている。このところの円安の急速な進行もあって、東京商品取引所の円建ての金価格は連日のように過去最高値を更新している。ドル建ての金には投資しにくい日本の一般投資家にとっては、またとない投資機会と言っても過言ではない。
「世界の安全資産」のはずの米国債は?
一方、インフレの進行が「もう一つの世界の安全資産」である米国債への資金流入を鈍らせる可能性にも十分な注意が必要だ。19日に発表された1月の米生産者物価指数は前月比で0.5%の上昇と、市場予想を大きく上回る伸びとなった。変動の激しいエネルギーや食品を除いたコア指数も同様に0.5%の上昇となっており、ここへきてインフレ圧力が急速に強まってきたことは否定できない。
前回のコラム「新型肺炎がもたらす『最悪のシナリオ』とは何か」 では、COVID-19の感染拡大によって中国からの供給停止による、コスト・プッシュ型のインフレに対する警告を発したが、これはあくまでも中長期的な視点の話である。足元の物価上昇は、昨年末までのエネルギー価格の上昇や、米中貿易戦争による輸入価格の上昇などの影響が出始めたことによる可能性が高い。
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