新型肺炎がもたらす「最悪のシナリオ」とは何か FRBの金融緩和策の行きつく先に起こる事態

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しかしながら、FRBの金融緩和という神通力が通用するのも、それが最後となりそうだ。 後2回程度の利下げは効力を発揮するかもしれないが、その結果FF金利誘導目標は1.00~1.25%まで低下することになる。そこから先は、FRBが利下げを行えば行うほど、利下げ余地がなくなってくることの方が、中長期的に懸念材料視されるようになる可能性が高いと見ておくべきだろう。

ジェローム・パウエルFRB議長も、2月11日、12日に行われた議会証言で、利下げの余地は少なく、次の景気後退期には量的緩和策を再び採用する可能性を示唆したほか、効果的に財政出動を行うことの必要性にも言及した。昨年の短期金利市場の混乱を収束させるためには開始したバランスシートの拡大も限界に近づいており、レポ取引や短期債の購入を徐々に縮小する意向も示している。FRBにおんぶに抱っこの状態で、いつまでも株価を押し上げることは難しくなるだろう。

問題はこれだけではない。市場では今回のCOVID-19の感染拡大によって中国経済が大きな打撃を受けたことに関して、さらに大きな問題を引き起こす可能性を懸念する向きが増えてきている。それは需要の一時的な落ち込みではなく、工場などの操業の長期停止などによってサプライチェーンが分断されることによる、大規模な品不足減少とそれに伴う物価の上昇である。

中国の供給が落ち込めば、悪いインフレも?

インフレには大まかに二つのタイプがあり、経済成長が続き需要が増えることによって物価が上昇する、ディマンド・プル型のインフレは良いインフレとされる一方、供給面に大きな問題が生じコストが上昇する、コスト・プッシュ型のインフレには問題が多いとされている。

足元では中国という大きな市場に問題が生じたことによる需要の減少に注目が集まっているが、依然として世界の工場としての大きな地位を占めている中国の製造業が壊滅状態になることよって生じる、供給の大幅な減少の方が、中長期的には遥かに影響が大きいと見ておいた方が良い。現時点で同国からの供給がどの程度落ち込むのかはまだ不明だし、それがサプライチェーンに決定的な影響を及ぼすのかも微妙なところであるが、そうした不安が高まるだけでも物価上昇圧力が強まる可能性は高い。

また商品などの一時産品についても、現時点では中国の需要減少が大きく懸念材料視されている中で価格下落に歯止めが掛からなくなっているが、こうした価格下落はいずれ供給の大幅な落ち込みにつながり、将来的な価格上昇を呼び込むことになる。農産物はもちろんのこと、OPEC(石油輸出国機構)による減産などの政治的な要因を除けば短期的に生産が変動しにくい原油などのエネルギー製品に関しても、今の価格低迷が続くなら米シェールオイル業者の経営をさらに圧迫、生産が減少することも考えられる。

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