「武漢のリアル」配信した中国人2人が行方不明 強まる言論の自由への欲望と中国政府の圧力

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陳氏とは異なり、方氏は新型コロナウイルスの拡大前はほとんど無名だった。彼のYouTubeへの投稿は、伝統的な中国服に関する熱のこもった動画などが中心だった。

だが、感染が拡大すると、方氏は無人になった武漢の道路や、混雑した病院などの動画を投稿し始めた。陳氏の動画は字幕がつけられ、きっちりと編集されていたのに対し、方氏の動画はそれほど洗練されたものではなかった。それでも、方氏の動画も陳氏の動画と同様に、次第に捨て身になり、大胆になっていった。

2月2日、方氏は役人が彼のラップトップを押収し、遺体を入れた袋の映像について尋問したことを話した。2月4日には、自宅の外にいる人々を撮影した。彼らは質問をしに来たと言っていた。方氏は彼らを追い払い、できるものならドアを壊してみろと挑んだ。

最後のほうの動画では、方氏の言葉は明らかに政治的になった。その度合いは、中国では、少なくとも公の場では、まず聞かれないものだった。自宅で撮影された動画で、方氏は自分が私服警官に囲まれていると言い、「権力への欲望」と「独裁政治」を激しくののしった。

最後の動画は2月9日に投稿され、わずか12秒の長さだった。その映像では1枚の紙が映され、そこにはこう書かれていた。「全市民、抵抗せよ。力を人民の手に取り戻せ」

2人の動画投稿の意義

香港中文大学の准教授でジャーナリズムが専門の方可成氏によると、方氏と陳氏の動画は、世界中に大勢の視聴者がいるが、中国国内でどのくらい見られているかはわからないという。2人とも主にYouTubeとツイッターを使っていたが、両方とも中国ではブロックされている。

医師の李氏の死に関してネット上に悲しみと怒りが噴出している一方で、陳氏と方氏が消息を絶ったことは、即座に中国のソーシャルメディア上ではもみ消された。2月14日に中国版ツイッターと言われる微博(ウェイボー)で2人の名前を検索してみたところ、ほとんど何も検索結果が得られなかった。

それでも、2人の動画や武漢で報道しているプロのジャーナリストの力を過小評価すべきではない、とフリーダムハウスのクック氏は言う。クック氏が指摘するのは、新型コロナウイルス感染者の判定基準が2月の第2週に緩和されたことだ。これによって、公表される感染者数が跳ね上がった。

クック氏は、「もし彼らが武漢で報道をせず、みんなが聞いている数字は小さすぎる、と示していなかったら」、この決定はなされなかっただろうと言う。「異常な状況の中では、2人のようなとても勇敢な人たちが、国に揺さぶりをかけることができる」。

方氏は最後の方の動画で、クック氏と同じような心情を抱いたようだった。方氏は、支援し続けてくれた視聴者に感謝を述べ、自分のことをこう表現した。「1人の人間、ただの普通の人間、愚かな人間。ほんの一瞬だけ、事実を明らかにした」。

(執筆:Vivian Wang、翻訳:東方雅美)

(C) 2020 The New York Times News Services 

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