「武漢のリアル」配信した中国人2人が行方不明 強まる言論の自由への欲望と中国政府の圧力
中国国民の間には、新型肺炎への中国政府の対応について不満が生じており、方氏と陳氏の動画にもそれが表れている。
「突然に危機が起こると、中国国民は幅広いコンテンツや報道を求める」と、フリーダムハウスで中国メディアについて研究するサラ・クック氏は言う。フリーダムハウスは、民主主義を推進するアメリカの研究グループだ。
方氏と陳氏が行方不明となっていることは、中国共産党が言論統制の手綱を緩めるつもりがないことを表してもいる。
1月に習近平国家主席は、「世論の誘導を強化する」必要があると述べた。中国のソーシャルメディアに恐怖と悲しみがあふれる中で、国の宣伝機関は習氏の統率力を強調し、感染拡大との戦いを愛国主義の表れと位置づけ、医療関係者がテンポの速い音楽に合わせて踊る姿を流した。
人権擁護団体「チャイニーズ・ヒューマン・ライツ・ディフェンダーズ」によると、中国全土で350人以上が新型肺炎の流行に関する「噂を広めた」として罰せられたという。
「市民ジャーナリスト」として活動
陳氏は、中国東部出身の若い弁護士で、感染拡大の前からインターネット上ではよく知られていた。彼は昨年、香港で民主主義を求めるデモが続く中で現地を訪問し、デモ参加者を中国政府が「暴徒」と呼ぶことに異議を唱えていた。
その後、陳氏はフォロワーに、中国当局が陳氏を中国本土に呼び戻し、彼のソーシャルメディア・アカウントを削除したと伝えた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大のため政府が武漢を封鎖すると、自ら市民ジャーナリストと名乗る者の義務として、陳氏は「恐れずに現場に行かないのであれば、ジャーナリストとは言えない」と言い、武漢に急行した。
数百万人の視聴者がいる陳氏のYouTube動画で、陳氏は家族を亡くした地元の人たちにインタビューをし、治療を待つ女性が倒れる瞬間をとらえ、検疫所に転用された展示場を訪れた。陳氏は、噂を広めたとして、中国の有力ソーシャルメディアである微信から閉め出された。しかし、彼は自分が直接に見たり聞いたりしたことしか投稿しないと断言する。
時間が経つにつれ、いつもはエネルギーにあふれる陳氏が緊張感を見せるようになった。1月30日には動画でこう話している。「恐ろしい。目の前にはウイルス、後ろには中国の法律と行政の力が迫っている」。
陳氏は、当局が両親に連絡を取り、陳氏がどこにいるかを尋ねたと言った。すると突然、陳氏は目に涙を浮かべ、カメラを指さして出し抜けにこういった。「死ぬことさえも怖くない。中国共産党、僕があなたたちを怖がっているとでも思うのか」。
2月6日、陳氏の友人たちは陳氏と連絡が取れなくなった。有名な格闘家で、陳氏の友人でもある徐暁冬氏は2月7日に動画を投稿。徐氏によると、陳氏の両親は「あなたたちの息子は隔離された」と言われたという。陳氏には何の症状も出ていなかった。