西武多摩川線、知られざる「飛び地路線」の実像 実は西武線でいちばんホットな路線かも

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「他の駅では……そうですね、競艇場前駅は開催日にはボートが走るモーターの音が聞こえてきて迫力がありますよ。新小金井駅は駅舎がレトロなので、よくテレビドラマのロケに使われています。終点の是政駅はすぐ近くに多摩川が流れていて是政橋を渡るとJR南武線の南多摩駅です」(五味田さん)

ちなみに新小金井駅があるのはもちろん小金井市。他に小金井市にはJRの武蔵小金井駅と東小金井駅があるが、実は新小金井駅がいちばん古い(1917年開業)。「小金井駅」としたかったところ、すでに東北本線に小金井駅があったために“新”をつけて今の駅名になったというエピソードがある。

また新小金井駅と多磨駅の間には野川公園。春には桜が爛漫と咲き乱れ、多摩川線の車窓からも楽しめる。終点の是政駅は東京競馬場の南門まで徒歩10分で、中央線方面から競馬場に向かうには実は便利な“裏ルート”(筆者も毎週末のように使っている……)。

車両も社員もベテラン

「あと多摩川線の特徴といえば、定年後の再雇用で働いているベテランの方々が多いことですかね。多摩川線の約3分の1が再雇用の社員です。特に運転士は、本線でずっと乗ってきた熟練の人たちが来ていますよ」(五味田さん)

多摩川線の車両はすべて新101系。西武の車両では一番古い形式だ。かつて本線でツーハンドルの電車を走らせてきた“職人”たちが、車両と一緒に多摩川線で引退前の最後のひと頑張り。こうしたところも、都心の近くにもかかわらずのどかなザ・ローカル線としての雰囲気につながっているのかもしれない。

多摩川線には近藤勇の生家(多磨駅)、山本五十六も眠る多磨霊園(多磨駅)、旧陸軍の掩体壕(白糸台駅)など見どころも多い。それでいて、武蔵境まで出れば20分程度で新宿に着くから利便性も充分だ。

武蔵境駅はJR中央線と並行。中央線と線路がつながっており、車両の保守で使用する(筆者撮影)

「多摩川線に行けと言われたときは『え?』と思ったんですけどね(笑)。でも、来てみると良さがわかる。社員同士もお客さんとも距離が近いし、本線には負けないぞ、という意識をみんな持っていますよ」(五味田さん)

中央線から1回乗り換えるだけでのどかで静かで温かいローカル線。それでいて利便性もさほど損なわれているわけではない。きっと家賃も安いんじゃないかと思うし、意外と東京郊外の“穴場”がここ西武多摩川線なのかもしれない。そして、西武鉄道からも忘れられていないようで、心から安心したのであった。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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