遂にティファニーまで買ったLVMHトップの野望

「カシミアを着た狼」と呼ばれた男の素顔

不動産業者が、なぜファッションブランドのディオールを欲しがったのか? インタビューの中で、アルノーはこのように述べる。

「70年代、初めてニューヨークを訪れたとき、空港からタクシーに乗り、フランスのことを少し知っているという運転手と話をした。フランスの何を知っている? 大統領の名は? 運転手は『大統領は知らない。でもクリスチャン・ディオールなら知っている』と答えた。これにはハッとした。ここにこそ可能性がある」(出典:長沢伸也『ブランド帝国の素顔』(日本経済新聞社)2002年。一部を省略して引用)

アメリカのタクシー運転手にとって、「フランスといえば、クリスチャン・ディオール」。ムッシュウ・ディオールはもう亡くなっているというのに、名前は栄光を失わず世界で輝き続けているのだ。ここにブランドが持つ力をかぎとったアルノーは、誰もが知っているブランドを手にすることを、世界帝国を築くためのジャンピングボードにしたのである。

その後、当初の約束とは裏腹に、ディオール以外の小さな企業を冷酷に次々に取り除き、また、新しいブランドを続々と手中に収め、決然としてブランドコングロマリットを構築していった。

「カシミアを着た狼」と書くメディアもあった。野心を隠さない、ユーモアもないユダヤ人のアルノーは、当初、若い官僚たちや教養のあるビジネス界の大物たちからは軽んじられていたようだが、それもいっそうアルノーの野心に火をつけたであろうことは想像にかたくない。

1987年10月の株価の暴落により、LVMHの株も下落する。虎視眈々とLVMHを狙っていたアルノーの会社は、LVMHの43%を安値で買い占めた。結果、40歳にならないうちに、アルノーはLVMHの会長になる。1989年にはアルノーが実権を握り、世界屈指のラグジュアリーブランドグループを誕生させるという目標を達成した。以後、高級品業界の王者として、着々とグループの領域を拡大し続けている。

利益を最大化する仕組み

アルノーの財政面でのやり方は、「マトリョーシカ(ロシア人形)」方式と呼ばれる。Aという会社の支配権を有するためには、Aの株を51%持っている別の会社Bの株を51%持っていればいいという仕組みである。LVMHの株を43%しか持っていないにもかかわらず、アルノーが全権を握ることができたのは、それ以外の13%の部分で影響力が及ぶようにしたためである(出典:『高級ブランド戦争:ヴィトンとグッチの華麗なる戦い』)。

また、アルノー自身の個人的利益を優先させるため、グループ内で資金を回転させることもアルノーの特徴とされる。LVMHに属するジバンシィからジョン・ガリアーノを引き抜き、ディオールに移籍させたこともその1つの例かもしれない。

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