遂にティファニーまで買ったLVMHトップの野望 「カシミアを着た狼」と呼ばれた男の素顔
しかし、このガリアーノは後に、酔ってユダヤ人差別発言をしたとされる映像をインターネットに流され、即日ディオールを解雇されている。豊かな才能に恵まれ、飛ぶ鳥を落とす勢いで名声を高めていたガリアーノであったが、コレクションに次ぐコレクションで休む間もなく作り続けなくてはならないプレッシャーと闘っていた。酒に酔ってユダヤ人への憎悪を吐露した背景には、どこかサディスティックにデザイナーの引き抜きや契約を遂行し、金のためにデザイナーを冷酷に働かせるユダヤ人会長のアルノーに対する不満も含まれていたのではなかったろうか。あくまで臆測にすぎないが。
アルノーの野心はとどまるところを知らず、2019年11月、LVMHはアメリカの宝飾王手ティファニーを約1兆7658億円で買収することを発表した。さらなる帝国拡大のための足場を固めた。
高級ブランドの世界戦略がもたらした弊害
資本家が高級ブランドを買い集め、グループ化し、莫大な広告宣伝費を投下することにより市場ないし「トレンド」をコントロールし、その結果、生まれた都市の光景が、世界の都市部を同じように見せている。
デザイナーもいまや資本家の駒である。いや、ファッション業界ではもはやデザイナーと呼ばれなくなった。広告や店舗の見え方までコントロールする仕事を求められるため「クリエイティブ・ディレクター」と呼ばれるようになったが、そのような才能の持ち主は、資本家の都合に応じてブランドからブランドへ渡り歩き、短期間で利益を上げ続けなければならない。結果として、デザイナーの個性も薄くなり、元祖が創り上げたブランドの特徴もよくわからないものになっている。
資本家がラグジュアリーブランドのグローバル化を進め、「(お金さえ払えば)誰でも持てる」という民主化をもたらした結果、消費者も特定のブランドへの偏愛を失い、話題の(=資本家が広告宣伝費を投入した)ブランドからブランドへと渡り歩いている。
利益を上げなければ首が飛ぶデザイナーは、飽きっぽい消費者を逃がさないため、半年どころか3カ月で続々と新製品を世に出さなくてはならなくなった。従来の春夏、秋冬のコレクションに、「プレフォール」コレクション、「クルーズ」コレクションが加わるようになったのだ。早いサイクルで回るラグジュアリーブランド市場がこうして生まれた。結果として、ファストファッション業界と同じカテゴリー内にあるように見えてしまうという皮肉な現状を生んでいる。
ラグジュアリーとは何なのか? 混乱し、疲れ始めた消費者は、長持ちするもの、時間とともに豊かさを実感できるものを求め始めた。大量に売れ残った商品を焼却処分していたという某ブランドのニュースも消費者の覚醒を促した。ファッション産業は石油産業に次いで環境汚染を生み出しているという事実から、目を背けることはできなくなった。
ブランドの世界戦略に翻弄された消費者の疲弊と覚醒は、企業の「サステナビリティー」への取り組みを監視し、さらなる努力を企業に促す姿勢へと反転している。
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