コロナ防衛「当然なのにできない」不都合な真実 予防をどれだけ徹底できるかが拡大抑制の肝

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そして新型肺炎の拡大を防ぐためには「なるべく不要の外出はしない」「外出時にはマスクを着用する」「帰宅時などこまめに薬用せっけんで手洗いをし除菌をする」という3つの対策を国民全体が実行すれば拡大はある程度予防できることがわかっています。ここは医者が言う「それでも防げませんよ」という言葉には耳を貸さずに実行すれば「感染拡大の確率は確実に下げられる」ということは言える。完全に防ぐことと、拡大を抑えることは違うからです。

しかしこの予防をしないのが人間だというのが社会学的に判明している。ここがこの問題の最大のポイントであり、人間という生物の矛盾です。

強制してでも予防策を取ってもらったほうがいい

だとしたら、本当の意味で効果的な新型肺炎対策は、権力によるマスクと手洗いの強要です。これは暴論として言っているのではなく、行動経済学的な知見から導かれる不都合な結論です。具体的には「公共交通機関の利用の際にはマスク着用を義務づける」「官庁、大企業、大規模商業施設、そして病院など人が集まる場所の入り口では手をアルコール殺菌してからでないと入館できないようにする」といった強制策です。

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それが今のところ民主主義で自由主義の国家では強要できない。でも強要されない人間は予防にはコストはかけてくれないことが問題です。実際、いまでも電車にマスクをつけずに乗ってせきをしている人を見かけます。マスクが買えないことを理由にしますが、ここではペーパータオルと輪ゴムでつくる簡易マスクでもできる対策の話をしています。経口再水和溶液(ORS)が入手できない国でも塩素と塩と砂糖で作り方を教えている。でもやらない人と同じ議論です。

結局はメディアがせきエチケットを強調するだけの対策しかできないのが自由主義国家日本です。悪い結果にならないことがいちばんですが、もしかして今回の新型肺炎の教訓がのちのち「中国のような統制型の国家体制のほうが人間の生活を守りやすい」などという結論につながらなければいいと私は心から思います。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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