それでそのような国では病気にかかる子どもたちが必然的に出てくる。すると両親は必死になって医者に治療を頼む。ある調査では貧困層の8パーセントの世帯が彼らの年収と匹敵する医療費、これは日本円で4万円程度の金額になりますが、それを払っていたといいます。予防にはほとんどお金をかけない彼らが、家族が病気にかかると注射や薬に莫大なお金をかける。これが3つめの例です。
あるNPOが貧困国で無料の子どものワクチン接種率を上げようと努力をしていたそうです。無料なのに予防接種を受けにくる人が少ないのは、子どもを連れて村から町まで歩いて医療センターに行くのが親から見ると1日仕事になり、その間、報酬が得られないからです。そこで予防接種を受けに来た人にダール豆という彼らの主食を1日分与えるルールにしたところ、予防接種を受ける人の数が劇的に増えたという事実があります。これが4つめの例です。
これらの例から医療について、行動経済学的にわかる事実があります。人間は予防にはほとんどお金をかける気がない。一方で病気にかかってしまった後では治療にはプライスレスでお金を支払おうと行動する。予防のほうが治療よりもコストが200分の1で済むのに、それをしない。これが人間です。
「お金を積んでも治療できない病気」が目の前に
さてさて、私たちの目の前にある新型肺炎のリスクがこれと同じ状況であることにお気づきでしょうか。先進国で暮らす私たちが普段、考えてもみなかった「お金を積んでも治療できない病気」が目の前にあるのです。
新型肺炎は治療法がありません。できるのは対症療法だけで、集中治療室に入れて気道送管で空気を送り込む。それでも一定数の患者さん、それは高齢だったり持病があったりする方が中心になるという意味ですが、そのような患者さんの中から残念ながらもお亡くなりになってしまう可能性があります。
【2020年2月18日8時40分追記】初出時、経口補水塩(ORS)の和訳と対処療法の方法について誤りがありましたので、上記のように修正しました。
WHOの関係者の話では治療薬を開発するのには1年半かかり、簡易診断キットを作るのですら半年かかる。現状では感染が疑われる人の検査すら1日1000人しか行えない。これから感染者が増加した場合、入院するベッドの数も限られている。あとになって発症することになる日本人にとっては、医者や薬が不足して、毎年何万人もの弱者が死ぬ貧困国の例と状況的に同じです。
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