映画館で「通信機能抑制装置」導入が進まない訳 上映前のマナー呼びかけでも導入には慎重だ
複数の大手シネコンに装置の導入実績について取材すると、シネコンAは「導入は今まで議題に出たこともない。お客様のマナーに任せている」と回答。別の大手シネコンBも「意図的に抑止する電波を出す装置は導入していない。マナーの呼びかけは上映前に映像を流したり、ロビーに掲示したり、苦情があればスタッフが声かけをしたりしている」とした。
通信機能抑止装置の設置には免許が必要だ。
電波法4条には「無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない」とある。総務省の総合通信基盤局移動通信課は「電波法上での表現になりますが、全国的には200局前後の通信機能抑止装置の実験試験局が開設されています」とする。
携帯電話やスマホの通信抑止装置を導入した施設は全国に200前後あるということだ。
では、その200前後に映画館は含まれているのか。「映画館で導入された実績はないし、検討もされていないというのが正しい。今のところ、映画館からの免許申請はまったくありません」と、意外な返答があった。
装置を導入している映画館は存在しなかった
検討すらされていなかったとは――。なお「映画館の装置導入は、法律上は問題ない」とのことだ。
同課によれば、次に挙げるような観点で判断基準が満たされれば、免許することは可能だという。「公共福祉の増進の意味合い、装置を導入して公共サービスの向上が見込める」「ほかに代替手段がない」「携帯電話の事業者から許可が出る」
なぜコンサートホールでは導入されて、映画館では導入の検討すらされないのだろう。
同課の認識では、コンサートホールは「リスク対策」として装置を導入しているという。
「公演する側が劇場を借りてコンサートを開く。それがコンサートホールです。公演中に観客の電話が鳴るとほかの観客や楽団に迷惑がかかります。これは聞いた話ですが、クラシックコンサートにおいては、携帯電話を鳴らしたことに起因する金銭トラブルがあったそうです。
公演を台無しにされた楽団がコンサートホールに(賠償金の)請求をする。その請求が今度は施設から携帯電話を鳴らした観客に届く。こういう構図です。コンサートホールでは、観客のスマホ利用を重大なリスクととらえて、装置の設置を希望すると認識しています」
「映画館ではそういう事情の違いも含めて、装置への導入の意識の違いがあるのかと思います。存在自体は認識したうえで導入していないんだと思います」