印刷会社社員「AIカーレース」世界制覇の舞台裏

古参企業がエンジニア育成に本気になった

AWSの日本法人と協力して社内研修を進め、認定資格の取得者を増やすなどの取り組みを続けてきた。DNPグループ全体で2000人のITエンジニアを抱えるが、現在はその3分の1がAWSなどのクラウドサービスを活用。さらにその中の200人ほどがAIを開発に取り入れているという。

「AIのアルゴリズムを一から開発するのではなく、これからは力のある既存のAIエンジンをいかに使いこなすかが重要。クラウドでAI活用のきっかけをつかんでほしいと感じた」。DNP情報イノベーション事業部の和田剛・システムプラットフォーム開発本部CCoEグループリーダーはそう振り返る。

ディープレーサーがエンジニアを刺激

そんなときにAWSが発表したのが、ディープレーサーだった。一般的なレーシングカーの18分の1サイズで、CPUやカメラ、加速度センサー、ロボット用のOSや画像認識ソフトウェアを搭載する。価格は399ドル。「強化学習」と呼ばれるAIの学習方法を用いれば、人間が操作しなくてもコース上を自律走行するようになる。発表以降、世界各地のAWSのイベントやネット上のバーチャル空間でレースが開催された。

大日本印刷は専門業者に依頼し、社内にDeepRacer専用の走行コースを開設した(写真:大日本印刷)

AWSにはこれ自体で稼ごうという意図はなく、多くのエンジニアに強化学習の仕組みを学んでもらうためだとしている。前出のDNP福田氏は「エンジニア魂を刺激された人は多かった」と話す。カーレースというわかりやすい競争の場で切磋琢磨することで、参加者はこぞってAIを学ぼうとする。AWSにとっては、学ぶ人が増えればAIサービスを使う人が増え、収入も拡大するというわけだ。

DNPでも狙いは的中した。それまではハッカソンを開催しても10人程度しか集まらなかったのが、社内のディープレーサーのレースにはグループ会社も含め70人以上が参加。2019年3月から毎月レースを開催し、定期的にノウハウを共有する勉強会も行われた。「上長の目を気にせずに誰でも参加できるように気を配った。そのうえで、自分の知識をより多くの人にシェアしてもらおうと努めた」(和田氏)。

レースのために本格的なコースの制作をプロに依頼するほどだった。また、シミュレーター上のバーチャルレースも開催されていたため、東京だけでなく、全国のエンジニアが参加可能に。ラップタイムを計測するセンサーやストップウォッチの仕組みをAWSのサービスを使って構築する人が出てくるなど、自発的にAWSを使い倒そうとする動きも出てきたという。

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