印刷会社社員「AIカーレース」世界制覇の舞台裏

古参企業がエンジニア育成に本気になった

アマゾン傘下のクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」が主催したAIレーシングカーレースの世界大会で、大日本印刷グループの社員が優勝した(写真:Amazon Web Services)

老舗印刷会社で働く女性社員が、2019年の年の瀬にアメリカ・ラスベガスで開かれたAI(人工知能)ラジコンカーレースの世界大会で頂点に立った。

この大会はネット通販世界最大手アマゾン傘下のクラウドサービス、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が主催したものだ。同社がソフトウェアエンジニア向けに開発したAIレーシングカー「DeepRacer(ディープレーサー)」に、世界中のエンジニアたちが思い思いに学習させたAIを搭載し、コースで走らせてタイムを競った。

「AI開発未経験」で優勝

この大会で優勝したのが、国内印刷最大手・大日本印刷(DNP)グループで働く瀧下初香さんだ。普段は、個人に届く請求書などのビジネスフォームを作成するためのシステムの設計や開発に携わる。「自分の仕事でAIに触れることはまったくなく、ましてやAWSに触ることもなかった」と、瀧下さんは振り返る。

AWSが開発した「DeepRacer」の本体とカバー(記者撮影)

実はDNPは今、多くの社員にディープレーサーのレースへの参加を促し、クラウド人材を育成しようとしている。紙メディアの減少やペーパーレス化などによって、DNPが手がけてきた従来の印刷ビジネスは縮小傾向にある。一方で印刷で培った技術やノウハウを生かし、デジタル分野を広げてきた。

チラシはネット広告やサイネージ広告の配信へと発展、高シェアを得たICカードを起点に決済システムの事業も拡大させた。企業のITインフラの運用やシステム構築、アプリ開発を請け負うビジネスも成長柱だ。

こうした事業ではこれまで自社データセンターを活用してきたが、「顧客企業から開発の速さや柔軟性、拡張性が求められる場面が増えた」(DNP情報イノベーション事業部C&Iセンターの福田祐一郎副センター長)。そこで必要に迫られたのが、AWSのようなクラウドサービスの活用だ。2017年夏、DNP社内ではクラウド人材育成の大号令がかかった。

旧来のIT資産に縛られる企業は少なくない。DNPの場合は部門トップの一声が大きかった。情報イノベーション事業を管掌する蟇田(ひきた)栄専務はアマゾンやAWSが本社を置くアメリカ・シアトルを訪問し、オフィスやレジなし店舗の「Amazon GO」を見学。スピード感や熱気を感じた蟇田氏が社内で動いたという。

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