では中央での新型肺炎対策が習氏の主導で進んでいるのかというと、少し様子が違う。全体の指揮をとるための「中央新型肺炎対策領導小組」が1月25日に成立したものの、組長はあらゆる権力を集中させてきた習氏でなく、なぜか李克強首相。武漢に現地視察に行ったのも李首相だった。
「新型肺炎対策領導小組」組長の李首相以下、メンバーは9人いる。そのうち3人が習氏の側近として知られる人物だ。丁薛祥・党総書記弁公室主任(習氏の上海市党書記時代の部下)、黄坤明・中央宣伝部長(同じく浙江省党書記時代の部下)、蔡奇・北京市党書記(同)である。
組長の李首相と、副組長の王滬寧氏の2人は共産党の最高指導部の一員である中央政治局常務委員。残りの7人も副首相クラスかそれ以上の高官という重量級の編成だ。メディア・言論統制の最高責任者である王氏がにらみをきかせ、公安部門のトップも加わる一方で、感染症の専門家や発生源である湖北省と関わりのある人物がいない。感染症封じ込めよりも、世論工作や治安の確保を優先している印象がぬぐえない。
習氏は新型肺炎対策に不退転の決意
これはSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るっていた2003年4月に、胡錦濤政権が編成したSARS対策チームのメンバーと比べるとはっきりわかる。このチームが発足する直前には情報隠蔽の責任をとらされて北京市長や衛生部長(大臣)が更迭された。新たに衛生部長を兼任した呉儀副首相を組長とし、残りの13人はそれ以下のランクのテクノクラートだった。その後のSARS退治で評価されたこのチームは極めて実務的なメンバー構成だったのだ。
中国批判の論調が鮮明な香港のアップルデイリー紙は、「習氏が自分で組長にならない、責任の所在があいまいなチームに地方政府の官僚を管理できるのか? 呉儀氏が率いたチームにとても及ばないだろう」という識者のコメントを引用している。中国国内からも習氏の責任を問う声があがるが、徹底的に押さえ込まれている。
習氏は2月3日に党常務委員会を開き、これまでの対策の遅れに言及しつつ新型肺炎対策に不退転の決意を示した。一部では「初動対策の遅れを認めた」と報じられているが、中央の責任を明確に認めた言葉はなく、地方政府を引き締めるためのメッセージという印象が強い。これを報じた4日付の人民日報の1面は、新型肺炎との「人民戦争」を国民に呼びかける論説をセットで掲げている。
習氏は2022年に国家主席としての2期目の任期を終える。2018年の憲法改正によって国家主席の任期を撤廃した習氏には「3期目」もありうる。しかし、経済が減速しているなかで新型肺炎の流行を許したことで、必ずしも権力基盤が磐石ではなくなってきた。一極体制が機能不全に陥るリスクがある。
中国の世界経済における存在感は2003年と現在では比較にならない。統治機能の不全から新型肺炎対策が遅れるようなことがあれば、それは中国のみならず世界にとっても不幸としか言いようがない。
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