世界の自動車業界は、回復途上にいる《ムーディーズの業界分析》

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 北米では、10年の自動車販売台数は、09年に大幅に落ち込んだ水準に比べいくらか上向くであろうが、それでも以前のピーク水準を下回ると予想される。ムーディーズは、米国における自動車販売台数を約1150万台と見込んでいる。自動車メーカーによる大幅なリストラ策が実施されたとしても、販売台数の水準は収益性を回復させるのに十分ではない。だが、米国の自動車市場に過去数年間重くのしかかっていた大きな下方圧力はやわらいだと見られる。米国大手3社は市場シェアの維持と、消費者の嗜好の変化に合わせた新製品の投入という課題に直面するであろう。日本の大手メーカーは、収益の地理的分散から恩恵を受けるが、円高により収益は下方圧力を受ける可能性がある。中国は世界市場の中で明らかに例外となっている。税優遇制度、政府の景気刺激策による経済成長、中産階級の所得の増加を背景に、中国の2009年の販売台数は約30%%増加するとみられる。

ほぼすべてのメーカーが08年末にかけて、数十億ドル/ユーロ単位の多額のキャッシュフロー減少要因となった新車在庫の削減に成功している。09年上半期には、運転資本増加の要因となっていた在庫の大部分が解消された。大半のメーカーで赤字を計上したにもかかわらず、在庫削減によって生成されたキャッシュによってフリーキャッシュフローは黒字となった。しかし、スクラップインセンティブが大きな需要押し上げ効果を生んだ西欧を中心に、多数のメーカーが増産に転じたため、09年下半期は運転資本の増加により、現預金はある程度減少するだろう。10年は運転資本減少によるキャッシュフローの増加は続かず、それに代わり、業績改善がキャッシュフローを増加させるとムーディーズは予想している。一部のメーカーは、流動性に関する懸念を解消させるための施策を過去6カ月にわたり実施してきた。また、多数のメーカーが借り換えや債務の満期構成の長期化のために社債を発行した。

ムーディーズが格付けしている発行体は、今年、低水準の需要に合わせて、在庫水準とコスト構造を調整しているので、その恩恵は受けるだろう。さらなるリストラ費用の計上がなければ、今年の極めて低い水準からではあるが、業績は回復トレンドをたどるだろうと、ムーディーズでは予想している。

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