ビジネスモデルとコース料理の意外な共通点 熱心なビジネスパーソンが陥る「わな」の正体

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それゆえ、アナロジーを用いて分析と発想をする場合、お手本となるビジネスモデルの構造を読み解く必要があります。このときに役立つのが、企業と顧客(供給業者)がどのような関係で結ばれているのか。登場する企業と顧客を矢印で結んで、お金の流れやサービスの流れなどを示した図です。私は、板橋悟さんが考案した「ピクト図解」を利用することをお勧めしています。

和洋中のどのコースを食するのか

それぞれのアプローチをコース料理として見なすと、さまざまなことがわかります。文化的な背景が違うこと。分析対象や発想法も違うこと。使うべきフレームワークや検証のあり方も違うこと。それゆえ、いいとこ取りのように組み合わせてもうまくいかないのです。

最後に、このコラムをここまで読んでくださった方々に3つのメッセージをお伝えします。

第1に、各アプローチにおける「分析」「発想」「試作」「検証」の手順を、その文化的な背景にまで踏み込んでしっかりと味わってほしいと思います。適切だと思うものを選んでやり切ってください。

例えば戦略的分析アプローチは、データがあって適切に分析されれば失敗のリスクを減らせる反面、調査と検討に時間がかかってしまいます。また、まだ存在しない新しい市場については、顧客も競争相手もいないのでデータが取れません。それゆえアイデア発想が難しくなるのです。

これに対して、デザイン思考やパターン適合アプローチで進めれば、将来について大胆な発想を出すことができます。ただし、このアプローチは論理的な飛躍を伴うことが多いので、プロトタイプをつくってしっかりと検証しましょう。

3つのアプローチを一通り試してみることで、それぞれの強みと弱みがわかります。すべて味わうことで、どのような場面で何を選べばよいか判断できるようになるのです。

第2に、各アプローチにおいて何が大切にされているかを感じ取ってください。戦略的分析アプローチでは、数値やデータが重んじられるので、それを示したグラフや図表にこだわりましょう。

一方、デザイン思考アプローチでは、顧客に提案する価値が大切なので、その本質を言い表す言葉がポイントです。これらに対して、パターン適合アプローチでは、ビジネスモデルを構成する企業や顧客の交換関係がクローズアップされるので、供給業者、企業、顧客などのステイクホルダーを矢印で結んだ図をしっかりと書きましょう。

何を分析して、何を発想し、どのように見える化のツールを使って描き出すのか。それぞれのアプローチの流儀をわきまえたうえで、フレームワークを選ばなければなりません。

第3に、以上の2つができるようになれば、皆さんが置かれた状況に合わせて適切なアプローチを選ぶことができるようになります。経験豊かな連続起業家は、状況に合わせて、頭の中で自在にこれらの発想法やフレームワークを使いこなしています。最初から「このアプローチ」と決めるのではなく、いろいろと試してみて、最も適切なものを選んでいくような感じです。

ここまで読んでくださった皆さんは、「ごちゃまぜてんこ盛り」に陥ることなく、自然に、調和がとれたコース料理を食することができるようになっていると思います。

井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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