異例の「1100万都市封鎖」、新型ウイルスの脅威 24日の春節入りを前に前代未聞の警戒態勢

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武漢市共産党委員会の機関紙である長江日報は、「全面的に戦時の措置をとり、疫病の蔓延を防ぐ」という武漢市党書記の言葉を伝えた。まさに臨戦態勢である。

23日19時(日本時間)時点で確認された中国の患者数は619人で、そのうち444人が湖北省だ。広東省32人、浙江省27人、上海16人、北京14人といった具合に患者は中国全土に分布しており、患者の存在を公表していないのは中国に31ある省レベルの行政区画のうち、陝西省、甘粛省、内モンゴル自治区、青海省、新疆ウイグル自治区、チベット自治区の5つのみだ。

死者は17人で、全員が湖北省で出ている。海外でも日本で1人、タイで4人、韓国で1人、アメリカで1人の患者が確認されている。

遅きに失した感染者情報の公開

湖北省以外の患者については、そのほとんどが20日以降に公表されたものだ。同日午前中に李克強首相が感染症の専門家を招いて国務院常務会議で対策を協議。さらに習近平国家主席が「効果的な措置をとって断固、感染拡大を抑えよ」としたうえで、「感染情報は速やかに発表すべし」と号令をかけた。これ以降、あれよあれよと患者数が増えている。

武漢市が初めての死者が出たと公表した1月11日の説明では、原因不明の肺炎患者が最初に確認されたのは2019年12月8日。その後に確認された患者のほとんどは市内の海鮮卸売市場の関係者で、1月1日にこの市場は封鎖された。

約20年前に流行したSARSは当初、ハクビシンが感染源と疑われたが、現在はキクガシラコウモリが感染源であると考えられている。今回の新型肺炎の感染源は竹ネズミかアナグマ、蛇と説が分かれている。いずれもジビエ(野生の鳥獣食)として食されており、市場での取引を通じて人間に伝染したとの見方が強い。

もともと中国では、2019年12月の時点で、武漢で原因不明の肺炎患者が出ているとの情報がSNS上で出回っていた。その後も「海外で患者が出ているのに、国内の他地域にいないわけがない」との声があがっていた。

それから1カ月あまりで情報公開が始まったのは遅きに失した感が否めない。中国の報道機関「財新メディア」は、現地からの報道として「複数の医師が最終的な感染者は6000人を超える可能性があると推計している」と報じた。財新はかつて当局によるSARS情報隠ぺいをスクープして名を馳せたジャーナリストの胡舒立氏が率いる独立系メディアだ。

一方で当局寄りの論調が強い「環球時報」も、「武漢の対応の遅さを教訓とし、その他の地方での対応を急げ」という社説を掲げた。「早くから患者の全面隔離を実施し、伝染の経路をふさぐべきだった」と主張し、武漢当局を厳しく批判する内容だが、こちらは責任を地方政府に押しつけ、中央への波及を防ぐ算段と見えなくもない。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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