この裏側には、全要素生産性上昇率を2020年代初頭にかけて1.8%に達することを前提として置いている。ちなみに、全要素生産性上昇率が1.8%を記録したのは1983~1993年の景気循環の頃で、足下の上昇率は0.5%である。要するに、1.8%という生産性上昇率はバブル期並みのものということである。
日本経済は、内閣府の楽観シナリオをたどれるのか
さて、年金の財政検証に戻ろう。前掲専門委員会で提示された経済前提では、内閣府の中長期試算に倣い、厚生労働省が「ケースA」と名付けたシナリオで全要素生産性上昇率を1.8%と置いた。
さすがに、厚生労働省も政権の方針に真っ向から批判できなかったともいえる。ケースAでは、物価上昇率が2%、賃金上昇率が2.2~2.5%、年金積立金の実質運用利回り(対物価上昇率)が2.9~4.0%となっている。つまり、年金積立金の「名目」運用利回りは4.9~6.0%という高い率になっている。
もちろん、今回示されたのは経済前提までであって、それに基づく年金の財政検証ではない。さらに、厚生労働省は、ケースAだけでなくより悲観的・保守的なケースも含め、計8ケースを示している。しかし、こうした経済前提だと、年金保険料を2018年以降引き上げなくとも、それなりに良い水準の年金給付を出しても年金財政は「安心」という結果が出ることは、今からでも予想できてしまう。
問題は、「本当にケースAのような日本経済に、将来なるのか」というところである。こうした楽観的な年金財政の見通しが示されたとしても、必要な年金改革で手を抜いてよいはずはない。
改革課題は山積している。景気が悪くとも物価が下がっても給付を少子化に連動して下げるマクロ経済スライドを発動させること、給付財源を低所得者に重点化すべく高所得者の年金給付を減額したり年金課税を強化すること、そして今の40歳代より若い世代に対する年金支給開始年齢を引き上げることなどである。年金をめぐる世代間の給付と負担のバランスに配慮しつつ、今後示される年金の財政検証の結果をこうした課題解決に活用すべきである。
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