「〇〇ちゃん、そんなふうに声を荒げたらほかのお客さまがビックリするでしょ。今日はこの辺にしておきましょう、ね?」と、たまりかねたママが割って入る。なだめられ、彼女は物足りなそうに店を出ていった。
かつてはスナックでも、仕事のやり方などをめぐり、男性客同士で議論が展開されるシーンをよく見かけた。声を荒らげることも少なくない。また、人生の大先輩が若者にマナーを注意する姿もあった。しかし今、目の前で繰り広げられているのは、女性客が手近な男性客を一方的に罵倒する姿である。これは極端な例だがこのような光景をよく目にするようになった。
ママに話を聞くと、「彼女は近くの会社に勤めるOLさんなんだけど、半年前くらいから1人でこの店に通うようになったの。ここ数日は、自分の部下が私の思いどおりに動いてくれない、でも嫌われたくないから言えないって悩んでたのよね。男性のほうは常連さんなんだけど、彼、聞き上手だから。彼女も気持ちよくなってスイッチが入っちゃったのかしらね。普段はあんなに大声をあげることなんてないのに……」とのこと。
職場で部下をうまくコントロールできていないとすると、男性に浴びせた暴言の数々は、自身に対する激励の言葉だったのだろうか。いずれにしろ、常連の男性客は気の毒である。非日常を求めてスナックに来たのにもかかわらず、上司でも同僚でもない人から説教を食らうことになるなんて。
「最近、管理職に昇格したって張り切ってたのよ。でも実際は、部下にも上司にも弱みを見せられなくて大変みたい。相当ストレスがたまっているようね」とママ。ストレスを発散したいのならカラオケでも歌えばいい。罵声は聞きたくない。「せっかく来てくれたのにごめんなさいね」。ママは常連客らにも頭を下げながら、店内の凍った空気を穏やかに変え、ようやくいつもどおりの時間が戻った。
ママ気取りでいきなり場を仕切り始めた
「私、スナックのママやったら絶対うまくいくと思うんだよね!」。このような、誰も求めていない“できます宣言”も、マウントスナ女にありがちな言動だ。スナックのママを前にして、自らのポテンシャルを自慢気に語る女性客も少なくない。
「こんばんはー!」。ママが1人でカウンターを切り盛りするとあるスナック。そこに、40歳前後の女性がやってきた。なんでも、1カ月ほど前にはじめて来店して以来、頻繁に顔を出すようになったそう。ちゃきちゃきした性格で、すでに常連客ともなじんでいる。久々の女性客にママも常連も喜んでいた。
3回目くらいになると、店の仕組みも理解したのか「ママ、これ運んでおくねー!」と配膳まで手伝うように。店が混雑してくると「こちらにどうぞー!」と接客までしてくれる。「〇〇ちゃん、まるでスナックのママだね」「〇〇ちゃんがママなら毎日来るよ」などと常連客のリップサービスも飛び出す中、彼女は「じゃあ、スナックのママとして雇ってもらおうかなあー!」とノリノリに。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら