「悪」は人間の心の一体どこに眠っているのか 「スター・ウォーズ」が見つめる"善と悪"

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洞窟での闘いは、自分の内にひそむ暗黒面との葛藤を意味する。これは神話にもよく出てくる話だ。テーセウスとミーノータウロスの闘いにしても、怪物の正体は英雄の「暗黒面」にすぎなかった。

「影の面をも人間が持っているということは、何かしら恐ろしいものがある」とスイスの精神科医・心理学者であるカール・ユングは書いている。

フォースの暗黒面はきっとこの考えに発想を得ているのだろう。ユングはまた、人間は善人でも悪人でもない、もしくは1人の人間がよいこともするし、悪いこともすると言っており、これもボバ・フェットやハン・ソロといった「中間的な人間」に通じる。

悪は心のどこに眠っているのか

では、「暗黒面」とは何だろうか。ユングはこれを人の「影」だとしている。人格の「ネガティブな面」、つまり「隠蔽された不利な性質や、発達の悪い機能や、個人的無意識の総体を指す」というのだ。

この影をスター・ウォーズでは暗黒面と呼んでいるのだが、簡単にいえば意識下に眠る当人も気づいていない性格、あるいはあえて気づかぬふりをしている部分といってもいい。

洞窟のシーンでもわかるように、影とは自分の内なる敵、少なくとも自分にとって受け入れがたい存在、嫌悪している部分を暗示しているのだ。

もちろん誰もが自分は悪ではないと思っているし、それはある意味で間違いではない。自分だけで考えて行動できるという個人レベルでは正しいのである。その限りにおいては、誰もが自分は虫も殺せぬ善人であり、他人に悪いことをするように仕向けられても絶対にしないと思っている。

しかし、人は集まると弱くなる。人が自分で考えるのをやめ、群衆に同化したとき、「そこからはひょっとすると、わけのわからぬことをいう1個の化け物が生まれてくる」とユングは指摘している。

歴史がそれを証明している。ユングは第1次世界大戦の惨劇を思い浮かべながらこう記したのだろう。ジョージ・ルーカスもまた、第2次世界大戦のことを念頭に置いていたに違いない。悪は私たちの中に眠っており、ちょっとしたことで呼び起こされてしまうのだ。

さて、悪は心のどこに眠っているのだろう。

ユングによると、影の部分は肉体からくるという。この点で彼の考え方はマニ教(※古代ペルシャ発祥の宗教派。悪者は悪者らしく、善人は善人らしく、白黒をつけたがる二元論が特徴)に近い。

肉体は性欲や死への欲求など、本能に従う動物に例えられている。頭ではよい悪いを考えていても、肉体は動物であり、本能的に行動してしまうというのだ。

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