なぜ「資本主義」は輝きを失ってしまったのか ノーベル賞経済学者が提示する「新・国富論」
現在、アメリカなどの先進国で事態がいい方向へ進んでいないというが、それどころではない。世界中に不満が蔓延している。
過去四半世紀にアメリカを支配していた経済学や政治科学の考え方によれば、こんなふうにはならないはずだった。1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊すると、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」を宣言した。
ついに民主主義と資本主義が勝利を収め、これからは経済がかつてないほどの速さで成長を遂げ、豊かさが全世界に広がるだろうと考えられた。アメリカはその先頭に立っているはずだった。
だが2018年になるころには、この高邁な理想も地に落ちて砕け散ってしまったようだ。2008年の金融危機により、資本主義がかつて思われていたほど完全ではないことが明らかになった。
資本主義は効率的でもなければ、安定しているわけでもなかった。その後の相次ぐ調査により、過去四半世紀の成長の恩恵を主に受けていたのは、最上層にいる人たちだということがわかった。
市場に任せておけば製品やサービスの生産を効率的に管理できるという思想が、これまで深い影響を及ぼしてきた。それが資本主義の理論的基盤とされてきた。
だが2世紀にわたる研究の結果、私たちはようやく、アダム・スミスの言う「見えざる手」がなぜ見えないのかを理解した。そんなものは存在しないからだ。
「市場に任せる」というスローガンはもはや意味を成さない。かつて右派はこう考えた。市場を再編し、それに伴い政治も変えていかなければならない。
こうしてレーガン政権時代から、最上層の人々に有利な市場の再編が始まった。だがそこには、大きな過ちが4つあった。
第1に、格差の拡大が多大な影響を及ぼすことを理解していなかった。第2に、長期的な思考の重要性を認識していなかった。第3に、共同行動の必要性に気づかなかった。公正で持続可能な成長を実現するには、政府がそれを推進していかなければならない。そして第4に、これが何よりも重要な点だが、イノベーション経済を推進しながら、知識の重要性や、テクノロジーの基盤となる基礎研究の重要性を十分に理解していなかった。
つまり、過去二百数十年にわたり資本主義の成功を支えてきた重要な要素を軽視した。その結果、当然予想すべきだったことが起きた。成長の鈍化と格差の拡大である。
国の富を生み出す3つの要因
本書の目的は、何よりもまず、国富を真に生み出すものが何かを示し、経済を強化しながらその利益を公平に分配していくにはどうすればいいかを明らかにすることにある。成長を万人に行き渡らせるためにはまず、国の富を真に生み出すものが何かを理解しなければならない。
富を真に生み出すものとは、第1に、国民の生産力・創造力・活力、第2に、過去2世紀半の間に見られたような科学やテクノロジーの進歩、そして第3に、その同じ期間に見られたような経済・政治・社会組織の発展である。
経済・政治・社会組織の発展には、法の支配、規律正しい競争市場、抑制と均衡により制御され、「真実を語る」機関を幅広く備えた民主主義体制の確立が含まれる。これらの発展が、過去2世紀にわたり生活水準の大幅な向上を支えてきた。
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