マタハラ裁判、高裁が下した衝撃判決の中身 一審での勝訴はなぜ大きく覆ったのか
「希望すればすぐに正社員に戻れるはず」と納得いかない女性は、労働局と、個人加盟できる労働組合の女性ユニオン東京に相談。10月に同ユニオンの組合員となり、「保育園が決まったのだから、正社員に戻してほしい」と団体交渉を行った。女性は、平日日中だけのコーチ以外の業務や土日だけのコーチ業務を要望したが、社員数20人規模では女性の思うように話は進まない。
マタハラ被害を受けたとマスコミ取材を受けるようになり、それを女性自身が同僚に明かした。女性は上司や社長との面談のほか執務室でもつねにスマートフォンのボイスレコーダーをオンにし録音する状態になる。
女性は会社在籍中に被害者団体の「NPO法人マタハラNet」でも活動を開始。講師として講演を行うなど活動の場を広げた。女性が職場復帰した2014年は、ユーキャンの新語・流行語大賞に「マタハラ」がトップテン入り。2015年8月下旬、女性活躍推進法が成立した日に外務省主催の「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW!2015)」が行われ、安倍晋三首相が登場する場に女性はマタハラNetのメンバーとして参加していた。
そうしたなか、情報漏洩を防ぐため禁止された執務室での録音行為を続けるなど問題行為が改善されないことを理由に、女性は2015年9月に雇い止めとなった。
会社側は女性との雇用関係がないことを明確にするための訴えを起こし、女性も「正社員の地位確認」を求めた提訴に踏み切った。
2015年10月、女性は、女性ユニオン東京と弁護団とともに厚生労働省内の記者クラブで提訴の記者会見を行い、「正社員を前提とするものだから契約社員への変更は『真意』でなかったとして、育児休業終了を理由とする不利益取り扱いに当たり、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法に違反する」などと主張した。そして前述したように2018年9月の一審判決で雇い止めは認められず、女性の件は一躍注目を集めた。
保育園に入園申請していなかったことが判明
ところが会社側が控訴して舞台が高裁に移ると、この裁判の一丁目一番地となる保育園の入園問題で新証拠が提出され、流れが変わった。
実は、正社員復帰のための交渉の場で「決まった」「見つかった」とされる保育園の名称は明かされずにいた。一審の終盤で保育園名がわかると会社側の弁護士は保育園運営会社に事実確認を行った。それで得た新証拠「乙102号証」により、女性が保育園に入園申請していなかったことが判明した。
この裁判の出発点には保育園の入園問題がある。二審判決でもあえて言及されたが、そもそも最初の入園申請では、女性は自宅近くの保育園1カ所しか申し込みをしていなかった。そのため1年の育児休業期間の終了の際には、預ける保育園が確保できなかった。
子育て中の杉村社長は、女性と同時期に第2子の保活を経験。待機児童が多く、最初は片道45分かかる認可保育園に預けて仕事に出ていた。入園前はベビーシッターも頼んだことから、育休延長時には女性に自宅近くの認可保育園以外の保活もするようアドバイスしていた。