マタハラ裁判、高裁が下した衝撃判決の中身 一審での勝訴はなぜ大きく覆ったのか
「乙102号証」を受け、女性は入園申請しなかったのは「辞退した」と主張したが、高裁は「正社員復帰に保育園確保が不可欠と認識していたはずの原告が、簡単にキャンセルし、あるいは申し込み自体を差し控えて自ら入園の機会を放棄するとは考えられない」「保育方法を限定し、どの程度熱心に保育園探しをしたか疑問がある」とした。
ただ、「乙102号証」をもって判決が翻るには及ばず、二審判決は、「それ以前の問題」だとした。一審で雇い止めの理由として認められなかった、(1)執務室での録音行為、(2)マスコミ関係者への取材内容、(3)業務時間内に作成した私的メールについて、そのものの見解が覆ったのだ。
身を守るためだと容認された録音の内容のなかに、面談での「俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」という上司の発言があった。女性が秘密に録音したものがマスコミに提供され、そのフレーズが切り取られて繰り返し報道された。
二審は、発言そのものは適切ではないとしたうえで、「上司との一連のやりとりのなかで、一審原告が、その妻の件をわざわざ持ち出して質問したのに応じて、上司が自己の個人的見解を述べたもので、職場環境を害する違法なものとまではいえない」と結論づけた。女性の録音行為は、「自己にとって有利な会話があればそれを交渉材料とするために収集しようとしていたにすぎない」と判断した。
マタハラ企業だと印象操作していた?
女性は取材を積極的に受け、読売新聞のインターネットニュースサイト「YOMIURIONLINE」(2015年5月12日)をはじめ複数の主要メディアで、匿名ではあっても「退職を強要された」「社を挙げてのマタハラだ」「会社は労働局からの指導を無視した」――などと報道された。二審判決は、「マスコミ関係者らに対して客観的事実と異なる事実を提供した、信頼関係を破壊する背信行為」とした。
提訴の記者会見が、女性は自身の氏名は匿名としながら、会社の名称は公開していたことに触れ、「契約社員になるか自主退職を迫られた」「労働組合に加入したところ、代表者が危険人物と発言した」「子どもを産んで戻ってきたら、人格を否定された」と発言したことも事実と異なるため、会社の名誉毀損になると認定され、女性に損害賠償金の支払いが命じられたのだった。
判決文によると、「自己の要求が容れられないことから、広く社会に報道されることを期待して、マスコミ関係者らに対し、客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対して一審被告がマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるをえない」と評価が一変したのだ。