日本郵政社長に斎藤次郎氏を指名 人間模様の裏側に潜む「政治の恐さ」

日本郵政社長に斎藤次郎氏を指名 人間模様の裏側に潜む「政治の恐さ」

塩田潮

 辞任に追い込まれた日本郵政の西川善文社長は、おそらく「ほんとうに政治は恐い」と思ったに違いない。「10年に1人の大物バンカー」といわれた実力者だが、政治に対する判断と政治へのかかわり方の難かしさを実感したのではないか。

 代わって新社長となる斎藤次郎・東京金融取引所社長も大蔵事務次官となった1993年夏、「10年に1人の大物次官」といわれた。直後に政権交代が実現し、当時の細川首相、与党最大の実力者の小沢現民主党幹事長と「3人4脚」で消費税率7%を内容とする国民福祉税構想を打ち出したが、すぐに頓挫した。結局、再び政権交代が起こり、自民党は10ヵ月で与党に戻った。斎藤氏は95年夏まで次官を務めたが、後半の1年は「針のむしろ」だった。政権奪還を主導した野中氏(後に自民党幹事長)や亀井現金融・郵政担当相は「敵」と組んだ斎藤氏を許さなかった。
 退職後は活躍の場を封じられ、「冷遇の14年」を余儀なくされた。官僚として時の政府に協力したら、権力闘争の渦にのまれ、以後の人生が一変した。「ほんとうに政治は恐い」と感じ、後の西川氏同様、政治へのかかわり方の難かしさを実感したはずだ。

 不思議な因縁だが、「昨日の敵」の亀井氏が今回、斎藤氏起用を決めた。一方、小沢幹事長と斎藤氏は以後の14年、不可分な関係を維持してきた。その斎藤氏は2005年の総選挙の直後、『中央公論』誌上で、郵政民営化について「基本的方向としては、正しいものであると考えられる」と書いている。
 その4年後の日本郵政社長受諾は、郵政について宗旨替えした斎藤氏が14年の「恩讐」を超えて亀井氏と手を結んだと見るべきか、それとも同じく15年前に1度、亀井氏らに煮え湯をのまされた小沢氏が民営化支持の斎藤氏と組んで「亀井包囲網」を築く計画なのか。1度は「政治の恐さ」を胸に刻んだはずの斎藤氏が73歳で再登場した狙い、仕掛けた側の計算の中身と合わせて、人間模様の裏側に潜む「政治の恐さ」の行方が気にかかる。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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