ポスト安倍レース、結局「岸田vs石破」の争いに 浮き彫りになる党内の「親安倍」「反安倍」対立

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対する石破氏は、2018年9月の総裁選敗北以降、ことあるごとに安倍政権のおごりや緩みについて厳しい批判を続けている。石破外しで要職から遠ざかり、表舞台での発信の場がなくなったため、民放テレビ番組や雑誌のインタビューなどで積極的に発信する必要に迫られている。同氏周辺も「大きく取り上げられるためにも、(反安倍での)尖った発言をせざるをえない」(側近)と解説する。

桜を見る会について石破氏は、「1952年以来続いてきたことで、それなりに意味があった」と評価する一方で、「内閣総理大臣として(社会を支えた人たちを)お招きして慰労するのが本来の趣旨。(多数の後援会関係者を招待したのは)やはり公平、公正でなかった」と批判。来年の開催中止についても「なぜ辞めるのかの説明が必要」と指摘する。

野党が追及している内閣府での招待者名簿の廃棄についても、「不審に思われても仕方がない面がある。廃棄の理由は薄弱で、保安上も(毎年の)重複を避ける趣旨からも、リスト保存はむしろ必須」と、証拠隠しとみえる官邸サイドの対応を指弾した。

「親安倍」「反安倍」の党内確執が浮き彫りに

この問題で安倍首相は、首相官邸で記者団に詳しく事情を説明したが、石破氏は「せっかく総理が自ら説明されるなら、立ち話的なものではなく、きちんと記者会見で堂々と(説明)されればいい」と手厳しい。さらに、主要2閣僚辞任での首相の任命責任についても「甘く見るべきではない。(辞任2閣僚は)その非について国民に謝罪なり説明なりするべきで、それを2人に指示するのが任命責任の取り方だ」と疑問を呈した。

安倍政治の継承を軸に、細田、麻生両派など党内の安倍支持勢力の後押しを得ようと腐心する岸田氏と、長期にわたる1強政治の歪みや緩みを厳しく批判することで「党内の潜在的な安倍政治への不満の吸収」を狙う石破氏。ここにきての両氏の発信ぶりは、まさに党内の親安倍と反安倍の確執も浮き彫りにしている。

そうした中、岸田氏は政調会長という立場を活用して、大規模な台風災害の視察を繰り返している。それに伴う今年度補正予算の編成について、「すべての(政調)部会長に議論を始めてもらっている」と党主導での大型補正実現への指導力発揮に余念がない。

さらに、安倍首相が悲願とする憲法改正についても、改憲をテーマとした「地方政調会」を各地で主催し、「リベラルの砦」とされる岸田派で憲法勉強会を3回開き、「安倍改憲」実現への貢献をアピールしている。

対する石破氏は、民主党政権時代に自民党改憲案づくりを主導した改憲派であるにもかかわらず、安倍首相の目指す憲法改正との対決姿勢を鮮明にする。とくに、安倍改憲の軸となる憲法9条を維持しての自衛隊明記については「私は理解できない」と批判し、安倍改憲阻止で野党と連携する構えすらにじませる。

こうして「次」を競い合う岸田、石破両氏にとって、「最大のポイントは『首相のやめ方』」(自民長老)だ。永田町で岸田氏への禅譲説が消えないのは、「任期満了による本格総裁選になれば、現状では地方票で圧倒する石破氏が有利」(自民長老)との見方が多いからだ。

だからこそ、安倍首相が東京五輪後の2020年秋に勇退して岸田氏を後継に指名すれば、「両院議員総会での議員投票(地方代表は47票のみ)で岸田氏が圧勝できる」(閣僚経験者)との筋書きが浮上し、石破氏が「党員党友の意思を無視する」と反発するのだ。

もちろん、今回の桜を見る会騒動をみても「政界の一寸先は闇」だ。禅譲説につながる首相の五輪花道論と並行して、「トランプ大統領が再選すれば、首相の4選が現実味を帯びる」(細田派幹部)との臆測も飛び交う。そうした中で、岸田、石破両氏が今後、次を見据えて党内での足場をどのように固めていくのかが、年末以降のポスト安倍政局の最大のカギとなりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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