鈴木亮平が「大河主演俳優」の次に目指す場所 「どれだけ準備できたかが仕事の質を決める」

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父親からの虐待が心に傷を残し、自らが親となったときに“負の連鎖”に飲み込まれてしまう大樹。その難しい心理を理解するために鈴木さんが取り組んだのは、自身の少年時代の撮影シーンを見学することだった。

本作に限らず、作中に少年時代が登場する場合、子役が演じる現場には出来る限り足を運ぶという。手間もかかるし、時間もかかる。それでも、その労力を惜しまない背景には、鈴木さんの俳優としてのこだわりがあった。

鈴木さんの俳優としてのこだわりとは(写真:Woman type)

「僕は演じるときに記憶というものを大事にしているんです。例えば、『15年前』というせりふを口にしたとき、頭の中で勝手に15年前の景色を想像しているのと、実際に15年前の様子を自分の目で見るのとでは、後者の方がより鮮やかに浮かんでくる。現場を見ると、より真実に近いものが出てくる気がするんです」

本作では、少年時代の大樹たちが父親に暴力を振るわれる場面が登場する。そのシーンも、鈴木さんはもちろんすぐ側で見つめていた。

「ただ子役の演技を見ているというより、自分がその場で一緒に体験しているような感覚ですね。その経験を自分の中に取り入れることが、僕にとってはすごく大事なんです」

そう真剣に演技論を語ると、ふっと目元を緩めて、「まあ現場を見ると余計なところも見えちゃうんですけどね、あ、殴ってないなとか」と冗談で場を和ませる。知的で、スマートで、ユーモアがあって、サービス精神旺盛。その人柄に、プロの片鱗が垣間見える。

プロの仕事は「準備がすべて」

役に合わせて自在に体重を増減させるなど、鈴木さんの徹底した役づくりにはかねてより定評がある。

「今回で言えば、吃音に関してはインする前にすごくリサーチをしていて。吃音には人それぞれ特徴があって、50音や文節のどこでつまるのか人によって違うとか、そういう基本的なことから全部。先生から指導を受けて、あとは吃音を抱える方々の交流会にも参加させてもらいました」

なぜ彼はここまで真摯に役づくりに取り組むのか。そこには、俳優・鈴木亮平ならではのルールがあった。

「できることは全部する。こうした方がいいと思いついたものは、とにかく何でも。それが、僕が守りたいと思っているプロとしてのルールです」

「事前の準備」がいちばん大事だと語った鈴木さん(写真:Woman type)

なぜならば、俳優にとって「準備がすべて」だと考えているからだ。

「僕たちの仕事でいちばん大事なのは、事前の準備だと思うんです。どれだけしっかりと準備できたかが、仕事の質を決めます。じゃあ、2番目に大事なのは何か。それは、準備したことをすべて忘れることです」

しっかり準備した上で、準備したことをすべて忘れる。なぞかけのような答えだが、この矛盾に見えるものの中に、一流のエッセンスがつまっている。

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