韓国競馬が「日本馬排除」で失った大切なもの 競馬場は「最高潮」でも、関係者は苦渋の決断

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大本命抜きで行われたレースは皮肉なことに、それなりに見応えがあった。まず「スプリント」はアメリカ3頭、英国、仏国、香港それぞれ1頭が参戦し16頭立てで行われ、韓国勢が上位を独占した。勝ったのは1番人気のブルーチッパー(騸4歳、父ティズナウ)で、2番手追走から直線で抜け出し、1分11秒1の好時計で快勝した。これで8戦7勝。7月には釜山ダート1600メートルを1分36秒1で圧勝しており、今回の時計も昨年の日本馬モーニン(牡7=栗東・石坂正厩舎)の優勝タイムより0秒4も速い価値あるものだった。

韓国馬によるスプリント初制覇の快挙に管理するキム・ヨングァン調教師は「日本馬が来ても勝つつもりだった」と豪語。馬主のチェ・ビョンブさんは2020年のドバイ遠征、再度1年後の参戦プランを明かした。

その余韻さめやらぬ中、ゲートインしたメイン競走である「カップ」はアメリカ2頭、英国、香港各1頭の計11頭立て。名手ムン・セヨン騎手が騎乗したムーンハックチーフ(牡4歳、父パイオニアオブザナイル)が積極策に出て、向正面で先頭に躍り出ると、そのまま押し切った。走破時計は1分53秒3。だが、こちらは残念ながら昨年ロンドンタウンが刻んだ1分50秒6のレコードタイムと比べると、2秒7も遅く、昨年4着のチョンダムドッキ(牡5歳)が2馬身半差の2着だったことが、このレースのレベルを表していた。

格付のレーティングトップで、アメリカのケンタッキーダービー、ブリーダーズカップに出走経験のあった1番人気の同国馬ローンセーラーは10着。期待の韓国馬ドルコンは大幅な馬体増が響いたのか、2番人気だったが結果は5着。自身のタイムも2着だった昨年より遅かった。

もっとも、地元が韓国G1を2連勝したことで場内の盛り上がりはハンパなかった。ムン・セヨン騎手はこの日、この韓国G1を2着、1着の大暴れ。「この勝利を2人の娘に捧げたい。お盆を前に餅代を稼ぐことができました」と笑顔をふりまいた。

ムン・セヨン騎手にとっては、最高の日となった(撮影:前田祥久)

売り上げ、入場者数ともに日本馬圧勝時よりも大幅増!

驚いたことに、場内の売り上げは743億ウォン(約68億円)、入場者は12万1424人と、昨年比でそれぞれ98億ウォン(約9億円)、6660人増と大盛況だった。「今年は秋夕(チュソク・中秋節)の連休直前とカレンダーが良かった面も考慮する必要があります」とKRAは冷静だった。

それでも、「さぞかし地元メディアは大々的に取り上げているのだろう」と翌朝、スポーツ紙、一般紙を8紙買い込みチェックしてみたら、なんとどこにもない。唯一「スポーツ東亜」が写真付きで事実関係を掲載していただけだった。肩すかしをくらった格好だった。この点はお国柄というか、予想紙は感心するほど種類が豊富なのに、結果の報道は関心を持たれていないようだ。

今回、韓国は日本馬を招待しなかったことで、国際化へ向け「回り道」をすることにもなった。というのも、韓国は2016年7月に国際競馬統括機関連盟(IFHA)の「パート2国」へ(日本などはパート1国)。今年から前出の両レースは「国際G3」に認定される予定だったが、格付けの基準となるレーティングを高めてきた日本馬が不在のため、格付けが取り消されてしまった。

レースが終わった後、地元の競馬ファンに聞くと「日本馬が来ても、今年は韓国馬が勝っていたよ」と話していたが、多くのファンは喜びの中、のど元に小骨がささったような感覚を少なからず持っていたのではないか。KRAのある幹部も「素直に喜べない」と口にした。

進化中の韓国競馬が、来年の2020年こそ「画竜点睛を欠く」、にならないことを強く願う。

山本 智行 フリーランスライター

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やまもと ちこう / Chikou Yamamoto

1964年岡山生まれ。スポーツニッポン新聞社の記者として競馬、プロ野球、ゴルフ、ボクシング、アマ野球を担当。その後、東京、大阪、福岡のレース部長などを経て、現在フリーランスライター。ギャンブル全般に精通、特にプロ野球界、公営ギャンブル界に幅広い人脈を持つ。趣味は映画鑑賞、観劇、旅打ち、ちなみにB'zの稲葉浩志とは中高の同級生。

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