韓国競馬が「日本馬排除」で失った大切なもの 競馬場は「最高潮」でも、関係者は苦渋の決断
これは、KRAにとっても苦渋の決断だったことは、容易に想像できる。筆者はそれまでKRA関係者と何度か連絡を取り合っていたが、日韓関係が悪化するなかでも、「スポーツや文化、観光などと政治とは別物」としていた。一方で「いまはネットでつながっていて、その境界が曖昧になっている」と危惧してもいたのは事実だ。
7月中旬には別件でソウルを訪問したが、「ノージャパニーズ運動」の広がりと過激さを見て、より一層不安な気持ちにかられた。KRA側も「日に日に悪いニュースばかりで影響が広がるか見守っています。競馬ファンからもこれまでになかった意見、文句が出始めています」と慎重な姿勢になっていた。
その矢先、ショッキングな一報が流れたのは8月11日。ついにKRAが日本馬の招待見送りを発表したのだ。舞台裏では「日本の関係者に事情を説明し、謝りに行く話もあった」という。最終的には文在寅(ムン・ジェイン)政権の同調圧力と国民感情を忖度したものだろう。
東西冷戦の下、繰り広げられた過去のオリンピックのボイコット合戦しかり。スポーツの舞台に政治は持ち込まないといいながら、同じことがしばしば繰り返されるのはいかがなものか。開催していれば、藤田菜七子がコパノキッキング(騸4=栗東・村山明厩舎、11月のJBCスプリントでは2着)で、コリアスプリントに参戦するプランもあっただけに幻となったのは残念でならない。
各国記者も残念がる声、東亜日報は「チャンス」と報道
レース当日のソウル競馬場は一瞬、そんなことを忘れさせるほど台風一過の秋晴れとなった。だが、日本馬不在の状況に、心までは晴れ晴れとはいかなかった。それは欧米の海外メディアも同じ。なかには「政治的な話はしたくないよ」と筆者に”取材拒否”の記者もいたが「とても悲しい。私はどちらの国も人々も馬も好きです。貿易などの問題を抱えているのでしょうが、早く仲直りして交流を再開してほしい」という意見や「その国が決めることに反対はしません。もちろん、さまざまな国からさまざまな馬が参戦する方が正しい」という声を聞いたことを書き記しておきたい。
現地メディアはどう伝えたか。韓国の有力紙「東亜日報」の日本語版は、コリアカップについて「今大会には韓国、アメリカ、英国、仏国、香港の5カ国が参加する。目立つのはコリアカップで3年連続優勝、コリアスプリントで最近2年連続優勝した日本が欠場していることだ。日本は地理的に近いという利点を積極的に活用して、元年から優秀な馬を大量に出場させて賞金を独占したが、最近悪化している韓日関係を勘案して、今回は招待対象から除外した。主催国の韓国としては初めて優勝まで狙えるチャンスといえる」と伝えた。
同紙は有力馬については、今年3月のドバイワールドカップに出走し11着だったドルゴン(牡5歳)を推奨。KRAのキム・ナクスン会長が「コリアカップ、コリアスプリントは海外出場馬のレベル、賞金規模などで世界的にも遜色のない大会だ。国家代表の馬が善戦できるように応援をお願いする」と語った、とも報じた。
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