絶好調の伊藤園「茶カフェ」に映る静かな危機感 定番として盤石の地位だが新たな魅力も必要

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一方で課題もある。緑茶市場は堅調だが、積極的に選ばれている感は少ない。

例えば前述した炭酸水市場は、この10年で13倍に拡大した。今年、別の記事で炭酸水を取り上げたが、「のどに刺激的な強炭酸が、夏の時季にはクセになる」という声も聞いた。メーカー側は「肉料理にも合い、食事の味を邪魔しません」といった訴求も行う。商品特性が違うが、首位ブランドの「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)のコアターゲットは30代と40代の男女で、20代にも支持者が広がっている。

緑茶商品は伊藤園に限らず、よく「急須でいれた味を再現」という訴求を行う。だが、そもそも急須を知らない若者も増えた。

ペットボトルで飲むお茶になじみはあっても、「急須」を見たこともない人もいる(写真:伊藤園)

「その点は認識しています。若者の消費離れがいわれますが、急須でいれる緑茶リーフ市場全体は減少しています。『お~いお茶』も中高年層の支持が高い。当社としても発売30周年にあたり、『お茶を“より身近な飲み物”に』を掲げ、施策を打っています。『オチャ ルーム アシタ イトウエン』では急須でお茶を入れていただくのも、その一環です」(山口氏)

「ブランドは消費者とともに年を取る」の格言もある。そこにもどう向き合うかだろう。

店名には「可能性」も込めている

飲食の現場では、目新しい食材や新業態店が注目され、人気を集める。一方で「消費者は意外に保守的」な一面を持つ。矛盾するようだが「昔からなじんだ食生活は安心できる」という意味だ。コメの消費量は減っても、おにぎりへの愛着は強い。1200年以上前からあるという「お茶を飲む」風習も、簡単には廃れないだろう。

中高年の支持者が多いのは、中長期的には懸念材料だが、伊藤園には追い風も吹く。国内では、前述した飲料市場の約半数が無糖飲料だが、同社の無糖飲料製品の構成比は約74%もある。一方、海外では「日本茶のシェアは10%未満で、茶系の大半が紅茶」(山口氏)だという。健康志向も含め、日本食に注目が集まる時代、拡大の余地があるともいえる。

こうして考えると、一見ベタな「オチャ ルーム アシタ イトウエン」という店名には、同社の本音も透けて見える。

「店名に含まれる『ashita』を漢字で表すと『旦』となります。『旦』の訓読み通り“あした(明日)”という意味から転じて、“新しさ”や“革新性”といった意味を込めています」(同社が10月16日に発表したニュースリリースより抜粋)

そのとおりだろうが、筆者には「このままではダメになる」の危機感にも聞こえた。茶系飲料のさらなる魅力を掘り起こさないと、「何となく好まれる飲料」の域を抜け出せない。そこを抜け出した先にこそ「明日(あした)の伊藤園」があるはずだ。

高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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