認知症「800万人時代」に銀行はどう備えるか 業界横断で研究団体発足、研修や資格認定も
今後の主要な課題として各金融機関が挙げるのは、顧客の認知能力に応じたサービスの実現だ。認知能力が低下した人でも、自身のニーズに沿った必要十分な金融サービスを受けられるように金融機関がサポートする。
その点で参考になるのが、イギリスの大手銀行グループ・HSBCの取り組みだ。同社は3年前から慈善団体のアルツハイマー協会などと提携してサービスの改善を図ってきた。
ロンドンのHSBC本社で取材に応じた推進役の1人、マキシン・プリチャード氏によると、まずどんな改善が必要かを調査するため、顧客からの相談や苦情を分析するとともに、地域社会に出向いて多くの認知症高齢者や介護者らと直接話をし、銀行に望むことを尋ねた。
その結果わかったのは、一口に認知症といっても判断能力がまだ残っている比較的軽度の人が多く、「できる限り誰かに依存せず、自立した生活を続けたい。そのためのサポートがほしい」というニーズが強いことだった。
暗証番号不要のカードや声認証サービスも
そこで同社は、判断能力のあるうちに法的な代理人を指名することを前提に、認知症になっても本人が基本的な銀行サービスを受けやすい専用口座を開発。そのためのサポート機能として、支払い記録の家族との共有や預金引き出し上限の減額のほか、暗証番号を忘れてもサインで支払いができるカード、1回30ポンド未満なら暗証番号の入力なしに預金を引き出せるデビットカード、声認証(ボイスID)によるテレフォンバンキングといった自立支援サービス(Independent Service)を付けた。
また、認知症になると記憶だけでなく、視力やバランス感覚など身体能力にも影響が出るため、支店の新設・改装時に手すりを設置するなど店舗の物理的改善も図ったという。認知症に関する知識や対応方法などを学ぶ協会認定の研修を受けたスタッフはすでに1.6万人以上に及ぶ。
イギリスでこのサービスを開始した後、「顧客からは『以前よりも自立した生活が送れるようになり、人生が変わった』といったポジティブな反応をたくさんもらえた。行員からも『認知症高齢者への対応に自信が持てるようになった』という声が多かった」とプリチャード氏は語る。同社は同様のサービスを「認知症にやさしい銀行口座」として2019年5月から香港でも開始している。
【2019年11月26日16時43分追記】「認知症にやさしい銀行口座」の開始時期を上記のように修正いたします。
もちろん、認知症顧客のサポートは利便性の向上だけでなく、犯罪や不正からの保護も極めて重要な課題だ。イギリスでも日本と同様、金融詐欺の多発が社会問題となっており、HSBCは内部の先進的な不正検知システムを強化するとともに、顧客本人や家族にもつねに注意と早期相談を呼びかけている。
イギリスでは約85万人が認知症と推定されるのに対し、日本のそれは約500万人とケタ違いに多い。高齢化先進国である日本の金融機関が、認知症顧客にどう対応していくか。その取り組みが各金融機関の業績と評価を大きく左右することになりそうだ。
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